ブラザー・ダック

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STEP1  大阪環状線「円王寺駅」から隣接する商業ビルへ続く空中通路の途中に、新しく市民広場ができた。  アーチ形の天蓋の下にいくつかのベンチと木製のテーブル。一般市民や小中学校の生徒の作品を展示するコーナーもある。開設当初からサラリーマンや親子連れなどに好評を博していた。  そのフリースペースの広場に3月頃から若者たちがたむろし始めた。最初は高校生グループが床に(じか)座りをしてはしゃいだ。やがて派手なコスチュームを纏った少女グループや素性の分からない二十歳前後の男グループが集まり出し、買ってきた酒類を持ち込んで酒盛りを始める者も出始めた。  彼らはスペースを長時間占拠して大声で騒ぎ、時に展示物にイタズラをした。周囲のひんしゅくを買いながらも、市民は腫れ物に触るように遠巻きにした。市は再三マナーを守るよう呼び掛けた。若者たちは面白がり一様に無視をした。問題としながらも一向に改善されない日々が続いていた。  ある日のSNSに1本の動画が共有された。市民広場を遠巻きにした市民がスマホで撮影したものだ。その映像はすぐに話題になり爆発的に拡散されている。翌日の朝にはテレビのワイドショーでも繰り返し流された。  フリースペースに突如、ネクタイ姿の男が3人現れた。画面の中で3人ともカーキのベレー帽を被り、色の濃いサングラスを嵌めていた。細身の体つきだが身のこなしがしなやかだった。  彼らの前には通路に胡坐をかいている体格の良い高校生が5,6人。そしてテーブル3つを占拠して私服の男女数名が荷物を広げて喋っていた。 「警告する。お前たちがここを占拠するのは迷惑だ。即座に消えろ」  サングラスの中のリーダーと思われる男がよく通る声を放った。若者たちは手を止めて注目したが、彼らの格好を見て嘲笑した。やかましいわ、アホか、と口々に罵った。 「再度警告する。即刻消え失せろ。さもないと」  なんや? と革ジャンを羽織っていた大男が立ち上がって詰め寄る。正面のサングラスの男の胸倉を掴む。次の瞬間、革ジャンの男は身体が反転して地面に転がった。リーダーの男が押さえつけている。革ジャンは動かない。 「抵抗したところで私たちにはかなわない。いいからガキどもはさっさと家に帰れ」  息を荒げることなくサングラスのリーダーが告げる。異様な空気に気圧されて、若者たちは次々と逃げ去っていった。背中を向ける若者を追うように画面が手振れした中で、最後周囲から拍手が湧いた。
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