ブラザー・ダック

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STEP5  東京都港区にある国際都市大学には都内でも有数の学内広場がある。  青山キャンパス3号館前広場である。その巨大な円形劇場のような広場に、午前中から様々な大学の学生が集結して午後には1500人近くになった。  彼らはストライキのために3号館を含む広場を占拠し、肌寒い秋空の下で薄着になって地べたに思い思いに寝ころぶ。彼らの周囲を自衛隊改め国防隊の隊員たちが取り囲んでいる。ニュースは愚かな学生たちであると嘆いた。  近年の凶悪犯罪の増加は深刻な問題となっており、その対策として昨年ようやく念願である「国家フェロー武装法案」が成立した。国家・地方公務員は全て「国家フェロー」職に統一され、彼らは銃器等で武装することが可能になった。それにより国内の凶悪犯罪は激減し、治安の改善に大いに貢献している。  だがしかし、法案に対して「撤廃せよ」というのが学生連中の主張であった。世界平和のスローガンを掲げ、逮捕するならやってみろ、と彼らは非武装の証としてシャツ1枚の薄着でストライキをした。国民の多くが彼らのそのような世間知らずの浅はかさに呆れた。だだっこのように主張をする前に、働いて国に税金を納めろ。  青山キャンパスのストライキの様子は、各メディアで一斉に報道された。グダグダした一進一退の攻防が繰り広げられるのでは、というのが大方の予想であったが、簡単に否定された。  午後3時、円形広場の入口ゲートを守っていた首謀者学生の陣地にジープ数台と放水車1台が流れ込んだ。間髪入れずにジープの荷台から催涙弾が無数に飛び出し、その上を大量の放水が弧を描く。ひとたまりもなかった。広場内の1500名の学生たちは半狂乱になった。  ジープと放水車の運転者はすべてブラザーダックであった。リーダー格がスピーカーで声を張り上げた。全員大人しく投降するように。抵抗する者は容赦なく拘束する。周囲を包囲していた国防隊はその様子を黙って窺った。  催涙ガスと寒さに震えた大部分の学生は狂乱状態で四方八方に逃げ出した。最後に残った100人近くの学生も、結局10分も経たずに全員投降した。  視聴者たちは歓喜した。ネットでは盛んにブラザーダックを称賛するコメントが並んだ。
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