ブラザー・ダック

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STEP6  新しい強い日本をリードする、と謳った革新党が、新鋭ながら圧倒的な支持を得て政権を獲ろうとしている。  総選挙の終盤にさしかかり党首の柄沢が声を枯らしていた。旗を振って応援する群衆は一様に笑顔で崇高なものを見るようなまなざしを向けている。「強い日本を作りきる」と選挙カーに掲げた横断幕が勇ましくたなびく。柄沢は軍服からイマジネーションされた丈の長い党の制服を纏っている。その純白のスーツが光輝いていた。  画面が切り替わり、東北の選挙区で保守派党首の蒼井が演説を行っていた。かつては日本の父と呼ばれた男が率いる政権与党は近年急速に勢いが衰えていた。今は老害の党とも言われ徐々に議席を減らしている。取り囲む聴衆の表情は厳しい。  今回の選挙は投票率は4割を切るだろうとキャスターが述べた。若い世代の投票離れが著しい。若者たちがどれだけ選挙に参加するかが鍵であるとも。  保守派党首の蒼井の演説風景の映像が繰り返し流れた。  視聴者たちには予感があった。まるでドラマのクライマックスを迎えるかのように。まさにそのタイミングでヒーローが現れることを。  ブラザーダックの5人が画面に登場した。幾重にも取り囲む群衆の肩越しでマイクを置いて演説台を下りた蒼井が、ブラザーダックたちのベレー帽の向こう側に引き込まれた。蒼井は首元のシャツをはだけてささやかな抵抗を見せたが、やがて黒いセダンで連れ去られた。  見えない画面の向こうで、競技場のそれのように大歓声が上がった。
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