恋路

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「そんな……。私の渋滞……そんなにあなたを苦しめていたの……?」 「遅刻……するんだ」 「ち……遅刻? それが理由?」  頷くしかなかった。 「それだけなら……早めに出る……とか」 「それは……」  高速道路のいう事には一理ある。  だが、それはあくまで必ず高速道路を必ず使うとした場合の理屈だ。 「あーら、高速道路さんって、ちっとも分ってないのですわね」 「よせ、国道」  国道が何を言うつもりなのかは容易に想像がつく。  そして、それは決して高速道路には聞かせたくない言葉だ。  だが、俺の制止を聞いてくれる国道ではなかった。 「爽快に走れるからこそ、あなたには価値があるんですわ。だから、みんなはあなたに課金してた。けどね、今の貴方は渋滞まみれの低速道路。通勤のために彼が課金する価値なんてあると思うのですか?」 「で、でも、高速道路が最高だって……」 「ええ、いかにも。ただし、渋滞がないならが付くんですのよ。事実、今の彼は通勤に私を選んでくれていますわ。これが全てではなくて?」 「そんな……渋滞なんて、いつかは終わるのに……」 「彼が下りるインターまでには解消しないと、お聞きしてますわよ」 「あ……」  これまでのうっ憤を晴らすかのように畳みかける国道。その姿はとてもじゃないけど褒められたものではない。だけど、俺が通勤のために今は国道を選んでいるのも事実だ。渋滞だらけでちっとも進まない高速道路より、速度は落ちても確実に進むことのできる国道のほうが、通勤には適している。 「私……価値無い? もう、課金してくれないの?」 「そういう事じゃない……。そうじゃないんだよ。高速代は会社負担だ。ETCカードがちゃんと支給されている。お金の問題じゃないんだよ」
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