My Name

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My Name

 物心つく前から、俺は自分の名前が少し“特別”なのだと気がついていた。 「おもしろーい」 「ヘンなのー」 「まあ……(本名だったの)」  子どもは感じたままを正直に口に出し、大人は少し憐れみ混じりの複雑な眼差しを俺に向け、曖昧に微笑んだ。  小学生になると、人前で自分の名前を書くことを「恥ずかしい」と感じるようになった。世間では、ちょっと見ただけじゃ読めないような芸能人みたいな名前を子どもに付ける“キラキラネーム”なんていうものが流行っていたが、俺の名前はそれとも微妙に違う気がした。 「わぁ、素敵な名前だねぇ」  中学生になって、クラスメイトの前で1人ずつ順番に自己紹介したとき、担任の春風(はるかぜ)先生が目を細めた。 「私の名前も、ちょっと珍しいでしょ。よせばいいのに、先生のお父さんが面白い人でね……兄に『(たかし)』なんて名付けたの。若い頃は落語家さんみたいだって嫌がっていたけど、今では“お話上手なお医者さん”になって、患者さんを笑わせているのよ」  そう語った担任の名前は、黒板に大きく書かれており、ご丁寧にふりがなが振られている。「春風羽良々(うらら)」――おっとりと陽だまりみたいに朗らかで温かい先生だった。  俺が自分の名前を心から嫌いにならなかったのは、彼女のお蔭だったのかもしれない。とはいえ、彼女の兄のようにポジティブに受け入れることは、思春期の男子には難しかった。  進級して、進学して……クラスが変わる度に、俺の名前は悪目立ちした。自己紹介では、揶揄われたり笑われたり、いつも同じ反応を示された。  ――勝手にすればいい。  高校生が終わる頃には、すっかり開き直っていた。あと少し……20歳になるまでの我慢だ。結婚したら名字を変えられる。ちゃんとした式は就職後でいいから、とりあえず彼女を作って、籍を入れて――妻の姓を名乗るんだ。それまで、あと数年の辛抱だ。  密かに計画を立て、大学ではコンパに明け暮れた。俺の珍名は場の盛り上げには貢献したけれど、姓を捧げてくれそうな女性はなかなか現れなかった。
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