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My Way
「ケイトさん、カイトをよろしく頼みます。カイト、ケイトさんと生まれてくる子どもを大切にな。たまには母さんに顔を見せてやってくれ」
照明を落とした披露宴会場が、優しい拍手に包まれる。あちこちから鼻を啜る音も聞こえる。白く浮かび上がるスクリーンの中では、親父が痩せた手を振り続けている。俺達は急いだのだけれど……“この日”に間に合わなかった。彼女と一緒に実家に行ったとき、既に進行性の末期癌だと知らされた。親父は黙って逝くつもりだったらしい。このメッセージ映像は、息を引き取る約2ヶ月前、入院中の病室で撮影したのだという。ターミナルケア病棟の担当医――春風亭先生が全面的に協力してくれたそうだ。
新郎・北海道
新婦・東京都
珍名同士の結婚と共に、親父の郷土愛溢れるメッセージは、しばらくこの式場の話題となった。どこからか話を聞きつけた地元の新聞社が取材に来て、小さな記事がひっそりと紙面の片隅に載って――俺を担当者にと名指しする取引が少しだけ増えた。
「ああ、北海道さん。今度のイベントもよろしく頼むよ」
「はい、よろしくお願いいたします!」
「そういえば、子どもが生まれたんだって?」
「ええ、お陰様で。男の子でした」
「そうか。ちなみに、名前を聞いてもいいかい?」
「陸の道と書いて『陸道』、といいます。俺が海の道なので」
この土地に愛され、良縁に恵まれるようにと願いを込めて名付けられた。素晴らしい名前だ。恥ずかしさなんて微塵もない。
「ああ……いい名前だね」
「ありがとうございます!」
だから――息子の名前にも、同じ想いを込めた。
フルネームで書くと「北陸道」。いつか“ほくりくどう”と揶揄われることがあるかもしれない。
それでも、誇りを胸に、一歩ずつ進んでいって欲しい。あの親父の孫だ、きっと大丈夫に違いないさ。
【了】
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