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ブランコを踵で揺らしながら、美羽は丸まったまま「ふぅぅ」と息を吐く。
学校に着いたら、またみんなが私を見てくるかもしれない。汚れたシャツの事で大介が責めてくるかもしれない。大介と仲の良い女子に、嫌われたかもしれない。
考えれば考えるほど、美羽のお腹は痛くなる。
中学に行って保健室で休ませてもらおうか。いっそ家に帰って母親に訳を話して休ませてもらおうか。
そんな事を考えていた時、不意にふくらはぎに温かいものが当たった。驚いて顔を上げると、白と黒のノラ猫と目が合った。
「猫……」
驚く美羽をよそに、ノラ猫は美羽の足に体を擦り付けてゴロゴロ鳴いている。ずいぶんと人馴れしている。いつも公園に来た人間にエサを貰っているのだろうか。頭を撫でると「もっと撫でろ」と言わんばかりに頭を手のひらに押し付けてくる。
「……聞いてくれる?」
ノラ猫を撫でながら、美羽はぽつりぽつりと話し出した。昨日の事、人の目が気になる事、自分の劣等感、実は大介は幼稚園の時からの幼馴染の事。そこまで話して、この公園で大介と遊んだ頃も思い出した。幼稚園バスの帰り、母親にカバンと帽子を押し付けて、二人ともキリンの滑り台に夢中だった事。
あの時は“大ちゃん・美羽ちゃん”と呼びあっていたのに、今では苗字すら呼ばない。
いつから変わったのだろう。このノラ猫の様に、また人の顔色など気にせず誰とでも接する事が出来たらどんなに楽だろう。
「お前はいいよね。何にも考えなくて済んで」
見上げてくるノラ猫に向かい、美羽はため息混じりに呟いた。ゴロゴロと喉を鳴らしていた猫は、美羽の言葉を理解したようにヒゲをピンと伸ばす。そしてニャアとひと鳴きするとノラ猫は目を細めた。
『ふざけんニャヨ オレ達たちダッテ考えテルゾ』
「……え?」
アニメのキャラクターのような、甲高い声。周りを見渡しても美羽の他に人間は居ない。
『マヌケな顔シテル オレが話してるンニャヨ』
「ね、猫が……」
『ノラ猫の大変さを知らないニャなら、ノラ猫にニャッテみやがれ!』
美羽の理解が追いつかない状態で、ノラ猫が素早い動きで飛びかかってくる。美羽は思わず、目をつぶった。
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