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☆☆☆
ノラ猫に飛びかかられた割に、美羽は衝撃を感じなかった。恐る恐る目を開けると、ノラ猫は美羽の前に座っていた。
「な、なんだ。驚かされただけか」
冷静を取り戻そうと、美羽は手で顔を拭った。フワフワの手で頬を擦り、丁寧に手を舐める。
「……あれ!?」
手を凝視してみる。真っ白な猫の手。体を見ると、手と同じ真っ白な毛。おしりには長いしっぽも。
「猫になっちゃった!?」
落ち着け。これは夢だ。美羽は落ち着こうと、何度も顔を前脚で拭った。体も綺麗に舐める。
落ち着こうとすればするほど、丁寧に毛繕いをしてしまう事で、美羽は本当に自分が猫になってしまったことを自覚した。
「なんで私を猫にしたの」
『お前がオレ達の事をバカにしたからだ。俺様はブチ。お前はなんて言うんだ』
「……美羽」
『変なナマエ』
「失礼ね」
目の前のブチにニャアと抗議をすると、ブチは尻尾を揺らし背を向けた。
『着いてこい。オレ様がノラ猫の大変さを教えてやる』
しなやかな動きで塀の上にジャンプしたブチが、美羽にも続けと尻尾を振る。
当たり前だが、美羽は一度も塀に登ったことはない。半ばやけくそでジャンプすると、その体はいとも簡単に塀の上に着地した。
「凄い……! 猫の体ってこんなに軽いの!?」
『こっちだ』
ブチが細い塀の上を素早く歩き、反対側に飛び降りたかと思うと、今度は細い柵の間を抜けていく。
一匹にされては困る、と美羽は慌ててブチの後を追った。人間だったら歩くどころか乗る事も困難な塀の上を、猫になった美羽は軽やかに進めた。人間なら腕しか通らない柵も、するりと簡単に抜ける。
猫ってすごい……!
喫茶店の裏を通ると、店のおばさんがおやつをくれた。チューブ状のゼリーは驚く程に美味しかった。
「あら、初めて見る白猫ちゃんね」
そう言いながら店のおばさんは、まだゼリーを食べている美羽のおしりの上を、軽くポンポンと叩きはじめた。
(なにこれ!? ポンポンされてるだけなのに、すっごく気持ちいい!?)
ゼリーを舐めながら、美羽は無意識の内に喉をゴロゴロと鳴らしていた。おばさんに叩かれれば叩かれるほど、おしりが上がってしまう。
『たまんねーダロ。そいつは俺達の気持ちいい場所を的確に狙ってくるゼ。捕まったらしばらく動けねえから大変なんだ』
美羽の横でゼリーを舐めながら、ブチが不敵に笑う。
コレが猫の世界。やっぱり猫に悩みがあるとは思えない。
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