ノラネコ道

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 その後は美羽の通っていた幼稚園に行き、小さい子たちにたくさん体を撫でられた。もぎゅもぎゅと容赦ない力加減だが、我慢する。 『ど、どうだ。ノラ猫も大変ダロ』 「う、うん、でもまだ人間の方が大変」 『ニャにぃ!?』  猫の集会に出て、四丁目のトラが佐藤さんちの嫁姑問題を丸く納めた武勇伝を聞き、駅前薬局の看板ネコで有名なマロンちゃんに新人猫としてご挨拶に行く。  その帰りにノラ猫二匹に驚いた浜田のおばあちゃんに美羽たちは水をかけられて、慌てて逃げた。 『な。ノラ猫も楽じゃないダロ!』 「人間よりずっと楽」 『ニャンだと!』  だって猫は、匂いだけで相手の感情が読み取れる。尻尾の動きだけで、気持ちが分かる。なんて、分かりやすい。  そよ風が美羽のヒゲを揺らしてゆく。その風の中に、美羽の知ってる匂いがあった。これは加藤大介の匂い。 『オイオイオイオイ! 美羽どこに行くンダヨ!』  ブチの声を無視して、美羽は走り出した。この道は毎日通る通学路。美羽の家と、大介の家の間位で、大介が美羽の家の方を向いて立っている。  すぐ近くまで来ると、大介の方から猫の美羽に近づいてきた。 「お前、来る途中に美羽に会わなかったか?」  猫の今だから、大介の感情が美羽ははっきり分かった。大介は美羽を心配している。猫の美羽を優しく撫でながら、まだ通学路に現れない美羽を待っているんだ。 (なんで心配してくれるの?)    訊ねてみたが、猫の姿では「ニャアア」としか話せない。なのに大介は美羽の聞いた事が分かったかのように白猫の美羽に言う。 「……シャツなんて、どうでもいいのに。あいつ絶対泣いたぞ。昔からすぐ泣くんだよ」    何度も撫でてくる大きな手のひらから、大介の優しさが溢れている。人間でいた時は無表情に見えてたのに、匂いはこんなに正直なんだ。 「早く完成しないかな。すげー上手い絵なんだぞ」  それも美羽のポスターの事だとすぐ分かった。人間になっても、ちゃんと向き合えば大介の事が分かるだろうか。怖がらないで、しっかりと顔を見て話せば、昔のように笑えるだろうか。  戻りたい。人間の篠崎美羽に。  
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