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子供は首を傾げた。
「なぁに?」
さっちゃんは続ける。
「この子みたいにお仕事をしているワンちゃんもいるから、いきなり近付いたり触ったりしないで、一緒にいる人に、触ってもいいか聞いてくださいね」
「おしごと?」
子供の問いに、さっちゃんはそうですよ、と頷いて道の端に寄ると、ハーネスとは反対の手に持つ白杖を子供に見せる。
「私は目がよく見えないので、この子はその代わりをしてくれているんです。それが、この子のお仕事なんです」
「おねえちゃん、おめめいたいの?」
「ううん、痛くはありませんよ。でも、よく見えないんです」
「そうなんだ……」
「だから、この子が私のお目目になってくれているんです。急にお目目に触られたら、痛いでしょう?」
子供がうん、と頷く。
さっちゃんはニコリと笑うと、言葉を続けた。
「そうですよね。だから、他にもこういうものを着けている子が、ワンワンがいたら、急に触ったりしないであげてくださいね。私や一緒にいる人にとっては、急にお目目に触られるのと同じですから」
ハーネスを指差してさっちゃんがそう言うと、子供はこくりと頷いた。
流石さっちゃんである。なんと優しくて、わかりやすいことか。
吾輩はさっちゃんに擦り寄りたいのを我慢して、毅然とした態度で座り続ける。
「ワンワン、ごめんなさい」
子供がしょんぼりとした声でそう言って、吾輩に向かって頭を下げる。いい子のようだ。
大丈夫である!
吾輩は再び応える。が、子供は首を傾げた。
やはり、吾輩の気持ちは伝わらないのである。
「怒ってはいないみたいですよ」
とさっちゃんが代わりに伝えてくれる。
子供はくしゃりと笑った。
「ワンワン、ありがと」
吾輩も笑う。
さっちゃんは子供の言葉の代わりにか、頭を撫でてくれた。
「ふふ、ありがとうございます。それでは、私達はこれで」
さっちゃんが歩き出そうという気配を見せるので、吾輩も立ち上がる。
「す、すみません。ありがとうございました」
父親がペコペコと頭を下げ、子供はバイバイと手を振っている。
吾輩とさっちゃんは、また歩き出した。
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