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Endless Summer
夏歩は夜中にそっと祖父母の家を抜け出し、坂道を上って森の中に入った。
夕食のとき、この森の中には木の生えていない空間があって、そこから見る星はとてもきれいだとママが言っていた。明日、東京の家に帰る前に夏歩はどうしてもそれを見たくなった。
森の中は夏歩が思った以上に闇に包まれていて、こっそり持ってきた懐中電灯の灯りじゃ全然足りなかった。やっぱり帰ろうか。するとガサガサ音がして、夏歩は恐ろしくて息が止まった。
「なにしてるの?」
少年の声が聞こえた。
「あ、あの、ほしを、見に」
「ひとりで?」
目を凝らすと、夏歩と歳も背格好も同じくらいの男の子だった。よかった、誰か知らないけど、クマとかオオカミよりよっぽどいい。
「うちのほうじゃ、よく見えないから」
「どこからきたの」
「とうきょう」
「ほしなんかあきるほど見えるよ、ここなら。おいで」
二人は歩き出した。すると夏歩の小さな足が地面に浮いた木の根にはさまり転びそうになった。
「だいじょうぶ?」
男の子がとっさに手を差し出し、二人はそのまま手を握って歩いた。
すると急に視界が開けた。
「うわあ」
顔を上げると、頭上に満天の星が見えた。
「きれいでしょ」
男の子は得意気に言って、夏歩の横顔を見た。
「わたし、またここにくる」
「ぼくも。きみ、なまえは?」
「かほ。あなたは?」
「しょうたろう」
「しょう……たろう?」
「そう」
渉太郎は夏歩の手を握っていた。夏歩はなんだか懐かしい気持ちで星空を見た。
*The end*
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