天然彼女×クラスの人気者

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天然彼女×クラスの人気者

 意外だ。  水野君が、この本を好きだなんて。  手の下の文庫本に私はチラリと目を走らせる。 『赤毛のアイドル~男子校に咲いた一輪の花~』  一人、ひょんなことから男子校に入学する事になったヒロインを、複数の男性キャラクターが奪い合うという話だ。  こんなの読んでるなんて知られたら恥ずかしい。そう思って咄嗟に隠してしまったが、意外と皆、こういう本が好きなのかもしれない。 「やっぱりさ、言葉にしなきゃ伝わらないよな。好きって気持ちは」  水野君、今日はすごい語ってる。きっとこの本の事、ものすごく好きなんだ。 「うん!すごくよく分かるよ」  初めて出来た同士に、私は嬉しくなって身を乗り出す。 「私も、なかなかくっつかなくてもどかしいなって思うもん」  そう。シリーズ2作目の現在、ヒロインの恋人候補は5人。一体誰がヒロインの真の恋の相手なのか、結末が気になって仕方がない。 「だよな!…でさ、安村さんはどうなんだ?いるんだろ?好きな奴」 「もちろんいるよ」  私は張り切って答える。  ヒロインの恋人候補たちの中で私が特に推しているのが、『妖精王・月影ライト』だ。彼はなんと、主人公の愛読小説から抜け出してきたという、5人の中でも異色のキャラクターなのだ。 「私が好きなのはね、ライト様」 「…え?誰?」  あれ?水野君、まだライト様の登場シーンまで読んでいないのだろうか。 「妖精の国の王様でね、長くて青い髪をいつもたなびかせていて、口癖は『今宵も月が青いな』。得意技は癒しの魔法。ヒロインが血を吐いて倒れる度に、いつも枕元でサンバを踊ってくれるの」  そして、口下手な所が、少し新堂くんに似ている。 「ああ…二次元の話か。そうじゃなくてさ、現実の男では誰が好きなんだ?」 「現実の男…」  ライト様以外の4人の中で、という事か。彼らは皆、普通の人間という設定だ。 「うーん…」  私は考え込む。はっきり言って、ライト様以外の男性キャラクターには興味がない。 「やっぱり私はライト様一筋かな。現実の男はちょっとね。あんまりときめかないっていうか….。魔法も使えないし」 「ま、魔法…?」  私の言葉に、いつも爽やかなはずの水野くんの笑顔が引きつった。
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