クラスの人気者×天然彼女

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クラスの人気者×天然彼女

 さて、どうしようか。  皆が帰宅した後の教室で一人、熱心に本を読んでいる安村さんの後ろ姿を見つめ、オレは考える。  「オレが聞いてきてやる」と新堂には言い切ったものの、どうやって彼女の本音を聞き出そう。いくらなんでもいきなり「安村さん、新堂のこと好き?」だなんてスマートじゃないよな。 「安村さん」  声をかけると、彼女はびくっと肩を震わせた。 「あ、水野くん」  慌てた様子で、彼女は読んでいた文庫本の表紙をさっと手で隠す。 「み、見た?」 「ああ、少し」  オレは頷く。  チラリと見えたタイトルの文字は、『赤毛のア』だ。『赤毛のア』と言えば、『赤毛のアン』以外にないだろう。確かに少女趣味ではあるが、別に隠すほどのものでもない。  にも関わらず、彼女は恥ずかしそうに俯いた。 「あ、あのね、この本は別に…」  そうだ、いい事を思いついた。オレは安村さんの隣の席に腰かける。 「いいよな、その本」 「え?」 「オレも好きなんだ」  驚いた顔で彼女はオレを見つめた。確かに男はあんまり読まない類いの本だろう。 「姉ちゃんが持っててさ。面白いからって最初は無理やり読まされたんだけど」 「あ…そうなんだ」 「主人公、赤毛だって揶揄われてもやり返すところがいいよな」 『赤毛のアン』といえばやはり、アンとギルバートだろう。なかなか素直になれず、すれ違い続ける彼らに読みながらどれほどイライラした事か。そんな2人に絡めて、さりげなく、自然に安村さんの胸の内を聞き出すんだ。我ながら良い作戦だと思う。 「だけどさ、オレ、思うんだよな。もったいないよな、って。あいつら好き同士なのになかなか気持ちが通じ合わないなんて」 「あ…そうだよね」  こくこくと彼女は頷く。 「もっと早く素直になっていれば、もっと早く幸せになれたのに。安村さんも、そう思わない?」  にっこり笑いながら、心の中でオレは付け足す。  だからお前らも、早く素直になれよ。
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