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でこぼこになっている雲の地面を強く強く押し固めていく。なだらかな道にするのは途方もない作業だった。でもこの道は必ず誰かの役に立つ。
「はぁー。なんかさー」
隣で作業をしていたリクがため息混じりに声をかけてきた。
「これって意味あんのかなぁ、とか最近思ったりして」
「なんの話?」
僕は顔を上げることなくそう声を返す。つくり始めたばかりの空道は空中で途切れていて、向こう岸まではまだまだ距離があった。道の端から下を見下ろしてみると、小さくなった街がいくつも存在しているのがわかる。いわゆる地上の世界だ。
僕たちがいる空の国は太陽の光が地上よりもずっと近くて、晴れの日は異様に暑かった。額から汗が流れ続ける。
「だってさー、俺ら翼あんじゃん。空道なんているか? 飛んでいけばよくね? とか思ってさ。まあ確かに、子どもとか老人はそんな簡単じゃねーけど」
思わず手を止めてしまい、リクへと視線を向ける。彼はタオルで汗を拭いながら、あっちーなーと言って水を飲んだ。
僕たち空族は地上人とは少し形容が違う。背中に翼が生え、空を自由に飛ぶことが出来る。宙に浮かぶこの空の国での暮らしが生活拠点となっている。
地上へ降りることは滅多にない。
地上との交易として物資を運ぶために降り立つ専門業もいるが、一般的な空族は地上人との交流などなかった。情報は衛星を通したメディアやインターネットが主だ。
今から二百年も三百年も昔の話。
地上には二種類の人間がいたらしい。片方は地に足を付けるように土地を耕し、街をつくった。いわゆる地上人である。
もう一方の人間は、持って生まれた翼を使い、比較的高所に生活拠点を置いた。
彼らは初めこそ交流があり、互いを助け合って生きていたそうだが、あるとき諍いが起こり、それは戦争へと発展したのだという。
それをきっかけにして空族は空に島をつくり、地上人との交流を絶ったと言われている。
その名残りからか、空族は今でも地上へ降りることは少ない。
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