空道職人

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「喋ってないで手を動かせよ。まだまだ先は長いんだぞ」  僕は向こう岸に見える空の島を指差してそう苦言を呈した。 「ヤマトは真面目だなぁ。よく働くよ。すげぇ、尊敬しまーす。あーあ、あいつ元気にしてるかなぁ」  リクが呟く。あいつとは、恐らくアスカのことだろう。彼は書き置きを残して地上へと降り、翼を捨てた。  アスカが空へ戻ることは二度とない。空族が故郷を捨てた場合、それは翼を折ることを意味する。  時代錯誤もいいところだが、僕らよりも上の世代の連中はそういう掟のようなものを重んじる傾向にある。  アスカは僕とリクと共に空道職人(そらみちしょくにん)を目指した仲間だった。  師匠のクマケンさんに習いながらも、立派な職人になるために修行を重ねていた。  それなのに、彼は唐突にこの国を去った。 「アスカのことはもう忘れろよ。今は道づくりに専念しないと」 「お前はほんと真面目だなぁ。俺なんてさ、ちょっと羨ましいとさえ思ったんだぜ。俺にあんな決断力あったらなぁ」  リクは分かりやすいぐらいにため息を吐く。僕だって、本当は地上に興味はある。どこまでも広がる大地に足を踏み入れて、自由に駆け回りたい。自然に囲まれた世界で、生きていることを実感したい。  そしていつか、地上と空を繋げる空道をつくりたい、そんな夢を持つほどに。  空の国は大小様々な島で構成されている。人口数人程度の小さな島から、人口数百人が暮らす大きな島までが存在している。  島を構成しているのは主に雲だ。そこに浮遊石(ふゆうせき)と呼ばれる宙に浮かぶ石がうまく混ざり合うことで耐久性を高めている。人が乗っても壊れないし、家を建てても崩れない。それほど頑丈なつくりをしていた。  空道はその性質を応用してつくられている。人工的に宙に浮かぶ地面をつくり上げられるのは、絶妙な配合によって成り立っているのだ。それをクマケンさんからみっちり教えられた。空道職人にとっての技術。これはこの先も次世代へと継承していかなければならないものだろう。
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