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「パパとママは、此処には来ないよ。キッチンで楽しそうに話してた。ほんと、2人とも仲が良いよね」
軽い口調で告げられたその言葉に、羨望が隠れている事にすぐさま気付く。
両親の仲の良さは、少々目に余る。見ていると胸焼けがしてくる事さえある程だ。
しかし、レイも私も、そんな両親を心から羨ましく思っていた。
「ねぇ、私もルイともっと仲良くなりたい」
一際甘えた声に、胸がきゅっと締め付けられる。
「充分仲が良いと思うけれど」
意味が分かっていながらも敢えてそう言うと、
「そうだけど、そうじゃなくって」
ふいに、レイの顔が近付いた。
化粧もしていないのにほんのりと赤く色づいた小さな唇が、私の唇にそっと重なる。そして彼女が「ね?」と言って、艶やかに目を細めて片笑を浮かべた。
私達がこうして口付けを交わす様になったのは、いつ頃からだっただろうか。記憶が曖昧だという事は、きっと物心付く前からなのだろう。
確か最初は、とても仲睦まじく隙あらば口付けを交わす両親を見て、見様見真似で始めたのだ。それが、家族愛を表すものなのだと思って。
朧げだが、何となくそれだけは覚えている。
しかし、歳を重ねる毎に私達は両親に隠れてそれをする様になった。口付けは、家族愛を表すだけのものでは無いと気付いたからだ。
隠れて行うという事は、つまりは血縁者に抱いてはいけない感情をお互いが抱いているという事を意味する。
――目の前の妹は、それをどこまで本気で捉えているのだろうか。
無垢な様でいて、時々周囲の人間を見ては人を食った様な顔をする彼女に、そんな疑問を持ち続けていた。
しかしレイがどんな感情を抱いていようと、私にとって彼女は何よりも大切な存在だ。私は生涯、隣で彼女を支えていくと、守っていくと、心の内で何度も誓いを立てた。
父にとって母の様に。母にとって父の様に。
例え私達が血を分けた家族でも、鏡の様な双子でも。――それが禁じられた事であっても。
私にとってはそんな事、どうだってよかった。
――愛とは何か。
そう問われれば、私は迷いなく妹と答える。
広く、今も昔も階級制度に支配されているこの国で、私がレイを守ると言いきる事は難しい。どれだけ愛していようと、どれだけ尽くそうと、不幸の毒牙に掛かれば呆気なく壊れてしまう。
しかしそれでも、私はレイの為に身を投げうつ覚悟は疾うに出来ていた。
レイを救えるのなら、私は喜んでこの身を差し出そう。レイの為になるのなら、自ら地獄へ堕ちよう。
それが私の、“愛”なのだから。
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