XII 窮屈なアフタヌーンティー

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「……ルイ、凄く怖い顔してる。そんなにピアノの件嫌だった?」 「別に、そうじゃないわ」  レイの手にあるのは、ピンク色のギモーヴ。  ギモーヴは、確かフランスで親しまれているお菓子だと本で読んだ事がある。それがどこからか英国に伝わり、この国のアフタヌーンティーでも出されるようになったのだとか。  特別興味があった訳では無かったが、レイの小さな口に吸い込まれていくギモーヴを見ていると、何故だか無性に食べてみたくなった。  ケーキスタンドに積まれた白とピンクのギモーヴから、彼女と同じピンクを選んで摘まみ上げる。  指で触るとしっとりとしていて、直ぐに崩れてしまいそうな程に柔らかい。不思議な感触に少々躊躇(ためら)いながらも口に運ぶと、とろける様にふわりと崩れ、ベリーの酸味と甘みが口内に広がった。  独特な食感である為、非常に好き嫌いが分かれそうなお菓子だ。私は比較的好みの部類ではあったが、レイはそうでは無かったらしい。食べた直後に僅かに顔を歪め、砂糖もミルクも淹れていない紅茶を呷っている姿を見るに、口に合わなかったのだろう。 「――ピアノ、習うの?」 「習わないわよ。そんな分かりきった事を訊いて何になるの?」 「うわぁ辛辣。さっき私と話し合って決めるって言ってたじゃん」 「あんなの出任せに決まっているじゃない」 「じゃあ、アイリーンに家庭教師(ガヴァネス)は付けなくていいって言わないとだ」 「余計な事しないで頂戴。こういうのは自然に任せて忘れてくれる方が、都合がいいのよ」  ふうん、とレイが曖昧な返事をして、再びティーカップに口を付けた。それを見て、自身も紅茶を口に含む。  このアフタヌーンティーは、毎日行われるものなのだろうか。紅茶も決して不味くは無く、出される軽食も気軽につまめる為良い習慣ではあると思うのだが、アイリーンがこうして常に扉の前に控えているのは頂けない。  もし明日も同じようにアフタヌーンティーを行うとしたら、席を外して欲しいと頼んでみるとしよう。せめて、部屋の中では無く外に居てはくれないかと。  そう思いながら、ティーカップの底に残った紅茶を飲み干した。
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