XIV 趣味

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 アイリーンに連れられて訪れた撞球室(ビリヤード・ルーム)は、2階の最奥部(さいおうぶ)に位置するやや狭い部屋だった。  部屋の奥に、ソリッドオークの撞球(ビリヤード)台が置かれている。しかし台の上には何故か花瓶に活けた花が飾られており、もう長らく使用されていない事が窺えた。  壁には撞球(ビリヤード)台と同じソリッドオークのパネルが所狭しと掛けられており、その中にはまたもや見知らぬ人物の肖像画が埋め込まれていた。 「……また肖像画」  それ等を見上げながら、ぽつりと呟く。すると背後にいたアイリーンが、「トマス・ゲインズバラとトーマス・ローレンスが描いたものだと伺っております」と、絵を指しながら言った。  その名を出されても誰だか分からず首を傾げるだけだったが、レイはピンとくるものがあったらしい。「インズバラといえば、風景画を趣味にしていた画家だよね」とパネルに指先を触れさせながら呟く様に言った。 「肖像画は、お金の為に描いていたんだとか。代表作は、『アンドリューズ夫妻像』。カンバセーション・ピースの肖像画だね。あれって確か未完成だった様な」 「良くご存じで」  アイリーンの返答に、レイが「まぁ、絵には興味があるからね」と、変わらずぼんやりと肖像画を見つめながら零す。 「トーマス・ローレンスの事は、あまり知らないな。でも、ラファエルの『キリストの変容』を摸写したってのは知ってる。それで、芸術協会から賞を貰ってる事も」 「充分詳しいじゃない」 「こんなのは詳しいうちに入らない。最初に名前を言われなければ、この絵が二人のものだとは気付けなかった」  肖像画を見上げるレイの横顔は、今迄に見た事が無い程に真剣だ。しかし、何処か心ここに有らずといった様にも見え、言葉にし難い不安感を抱く。 「知らなかった。その――貴女がそこまで画家に詳しいなんて」 「いや、だから詳しくないんだって」  漸くレイが此方を向き、曖昧に笑った。 「ルイだって、作家には詳しいでしょ? それと同じ感覚」 「……別に、詳しい訳ではないけれど」 「ほら、ルイだって詳しくないって言うじゃん」  言い返す言葉が見つからず、ぐっと押し黙る。  レイは昔から絵を描く事が好きだった様で、勉強用のノートは落書きだらけだった。ただ勉強嫌いな彼女が手遊び感覚で描いているだけだと思っていた私はそれに着目しなかったのだが、実際はそうでは無かったらしい。両親は知っていたのだろうか。  彼女にしっかりとした画材道具を与えてみたら、どんな絵が仕上がるだろう。もしかすると、レイやアイリーンの言ったそれ等の著名な画家の様に才能を伸ばせるかもしれない。
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