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それは、もう三十年ほど前の晩秋のこと……。
当時、都内の大学の4年生だった修二は、小田急線の生田駅から歩いて十分ほどの、登り坂の途中にあるアパートで、一人暮らしをしていた。
大学生活も、残すところ数カ月となった頃、アパートの一階にコンビニがオープンした。
男の一人暮らしにとって、こんなに都合のよいことはない。すぐに常連となった。
そんな修二が行くのは、たいてい夜の10時頃。それにはある目的があったからだった。
そのきっかけは、コンビニが開店して一週間が経った頃のこと。
その日は、朝から晩秋の冷たい雨が降り続いていた。
大学近くの定食屋で食事をした後、パチンコをし、生田駅に帰って来たのが、夜の10時。
雨の中、傘を差して坂を上り、飲み物を買うつもりで、ふらっとコンビニに入った。
冷蔵庫の前で選んでいると、森高千里の『雨』が店内に流れ始めた。修二の好きな曲だ。
飲み物を選ぶのも忘れ、立ったまま最後まで聞いてから、ペットボトルを一本取り、レジに持っていった時、
「こんばんは。いらっしゃいませ」
同い年ぐらいのアルバイトの女の子が迎えてくれた。
その、ほんわかした笑顔と声に、修二は一瞬で心を掴まれた。
それが、夜10時にコンビニに行くきっかけだった。
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