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旅行作家である私は、仕事柄、全国を飛び回る。
今回は、旅の途中に出会ったある夫婦の物語をどうしても残したくて、ここに記すことにした。
*
北海道の阿寒湖畔に、五十代の夫婦が営む小さな宿がある。
入口を入った脇に、セピア色に染まった一枚の古い写真が置かれている。
写っているのは、明るい笑顔の、二十歳くらいの可憐な女性だ。
「へぇ、これ奥さんの若い頃の? かわいいですね」
この宿に連泊していた私は、ある朝、散歩に出ようとして、ちょうど傍にいたオーナーに声をかけた。
「いえ、その人は妻じゃないんですよ」
オーナーの修二が、遠い眼差しになる。
「えっ、どういうことですか?」
「昔の恋人!」
いきなり女性の声が割り込んできた。修二の妻、真美だった。
「ちょっと待って。意味わかんないんですけど」
「忘れられないんですって」
いたずらっぽく笑って修二の頭を軽く突つく真美。仲の良い夫婦なのだ。
運良く、他に泊まり客のいないこともあって、それから私は、夫婦と一緒に近くの阿寒湖畔を散策しながら、昔話を聞かせてもらった。
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