究極の選択

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 ああ、分かっている。この場は「一」を選び、後日ホイホイでも仕掛ければ十分だ。きっと誰でもそうする。    しかし今の俺は早く片付けたい衝動に駆られている。愚かにも「二」を選ぶのだろう……。  体をそっと敵に向け、身構えた。  照明のスイッチに伸ばしたかけた手が、ふと止まる。 ――武器がない!  洗面台の下には洗剤などが置いてある。そこに殺虫剤の買い置きもあっただろうか?  否! 記憶の限りそのような買い置きはない。築二十年の家にも関わらず、一本の常備もないとは怠慢も甚だしい。殺傷力はなくとも役立ちそうな噴射剤くらいあるかもしれない。そう思いつつも、探している間に逃げられてしまうと確信する。    他に代わりになるものは?     そうだ、新聞紙だ。  新聞置き場は階段下にある。取りに行って戻ってくるまで、五秒……いや、家はそんなに広くない、三秒だ。  しかし何度も経験している。そのわずかなスキに敵はまんまと逃げおおせることを。    では……?    脂汗の滲む手で、そっとはいていたスリッパの片方を脱ぐ。状況によっては使えなくなることも考えられるが、今は先のことを考えなくていい。  敵の逃走ルートを頭に描く。洗濯機の裏は手が届かないが、脱衣カゴは動かせる。  よし。  戦いの火ぶたを切るように、照明のスイッチを入れた!
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