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そこには間違いなく、アーモンドより大きいサイズの黒いヤツが、我が物顔で佇んでいた。
洗濯機側から腕を振り下ろす!
――カサカサカサ。
おっと、逃げられた、もう一度!
――カサカサカサ。
敵は予想外の行動に出た。洗面所を脱出し、暗い廊下へと逃亡するではないか。
逃がすものか。
廊下の電気をつけると、真っ直ぐに進む敵の背中が丸見えになった。今度こそ。
追いかけて再びスリッパを叩きつける。そんな俺をあざ笑うかのように、奴は廊下の端を駆け抜けていく。
――バシッ!
今度は仕留めた。そう思ったのに、手を持ち上げてもそこに痕跡はない。視線を上向けると階段下の物入れの扉がわずかに開いているではないか。そこへ入り込んだに違いない。逃げ足の早い奴め。扉へ手をかけたとき、急に頭上から声がした。
「ねえ、どうしたの」
パジャマ姿の玲香が階段を降りてきた。
妻を起こしてしまうとは何たる失態! ただでさえ寝起きの悪い彼女をこんな時間に目覚めさせたら、翌朝に嫌味が飛んでくるのを防げない。その被害を最小にするためにも早く寝てもらわねば。
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