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玲香は、十人に聞いたら十人が俺の妻にするにはもったいないと答えが返ってくるほどの美貌の持ち主だ。職場では管理職を勤め、家事も手際がいい。俺の作る料理はひどいものだが、それを笑顔で食べてくれる優しさもある。住まいを決める時だって、彼女は高層マンションを希望していたのに、高所恐怖症の俺のために一戸建て住宅にしてくれたのだ。
玲香はとても大切なひとじゃないか。もし、もう戻って来なかったら?
恐怖に似た感情が沸き起こった俺の目に、玄関で靴を履いている彼女が映る。
「待ってくれ!」
懇願しながら細い肩に手をかける。何としても引き止めねば!
「俺が間違っていた。本当にすまなかったと思ってる。どうか許してほしい」
これじゃますます浮気みたいじゃないか。いや、そんなことはこの際どうでもいい。
「もう一度、俺にチャンスをくれないか」
必死の頼みが通じたのか、玲香が振り向いた。
「それじゃ、後で証拠写真を送って。安全が確認できたら帰るから」
「証拠……とは?」
「あれの息の根を止めた姿に決まっているでしょう」
「でも、あれが写っている写真なんて、君は見れないだろう?」
「そんなの当然でしょう。確認は同僚にお願いするから、私にちゃんと誠意を見せて。いい?」
何かが違う気がするが、考えているうちに玲香が出て行ってしまう。
「ああ、そんな……」
玄関で崩れ落ちる俺に残っているのは後悔だけだった。
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