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全てが嫌になって何もかもを投げ出して逃げてしまいたい。
そんな衝動がたまーに訪れる。
そしてまさに今がその時である。
いつものように制服を着て自転車に乗って高校へと向かう。
このまま真っすぐ行けば学校はすぐそこだ。
「よし、行くか」
来た道をUターンし曲がり角を右に曲がった。
この道の先には何があるのか。
いや、特に何も無くてもいいんだ。
知らない道を自分の意志で進む、そのことに意味があるんだから。
「あれ、晴香じゃん!どこ行くの?」
「ちょっと冒険―!」
「何言ってんの?遅刻するよー!」
後ろで何か言ってたけど気にしない、気にしない。
「今日の私は満足するまで帰らないんだから!」
周りは田んぼやら畑やらで代わり映えしないけどなんだかワクワクする。
この瞬間だけはこの世界の主人公は自分なんだと言い張ることが出来るかもしれない。
我ながら拗らせてるなぁとは思うけどね。
もう何分漕ぎ続けただろうか。
「ちょっと疲れたな…休憩しよ」
公園で休憩することにしよう、ただベンチが置いてあるだけで公園と言えるのか怪しいけど。
ぽかぽかと春風が吹いて気持ちがいい。
空を見上げるとあまりにも澄んだ青空でまるで絵の具を塗ったかのように見える。
「これは写真撮らないとなぁ…って、うわ」
スマホを開くと友達から学校、お母さんまで連絡が来てる。
「あーあ、やっぱりバレちゃったか」
友達からは心配や応援、学校からはお叱りの伝言メッセージ。
どうやら先生の内の一人に見られていたみたいだ。
「まぁ後で謝ればなんとかなるでしょ!」
お母さんからの怒りのLINEには「ごめん!学校はちゃんと行くから」とだけ返信しておいた。
「そろそろ出発するか」
十分休憩もできたし、私の冒険はまだまだ終わってない。
のどかだなぁとつくづく思う。
周りは田んぼ、畑、山。
高層マンションとか大きいビルとかコンビニさえ近くにはない。
不便だと思うこともあるけどなんだかんだ言って私はここが好きだ。
「あれ?晴香ちゃんじゃないの!学校はどうしたんだい?」
「こんにちはー!冒険という名のサボり中です」
お母さんの友達である翠さんは笑顔が可愛らしくてすっごく優しい人、お母さんとは違って。
「あらあら、懐かしいわね。私も昔は晴香ちゃんみたいにサボったこともあったかしら」
「翠さんも?なんか意外ですね」
真面目な人だからサボりなんて縁のない人だと思ってた。
「私もそういう時期があったのよ。学生の内はね後悔しないようにやりたいことをやればいいの!でもお母さんに心配かけちゃうような危ないことはだめよ?」
「はーい、翠さんありがとう!」
「いえいえ、楽しい冒険になるといいわね!気を付けていってらっしゃい」
最後にクッキーのおすそ分けを頂いて再び冒険へと出発する。
1口食べると素朴な小麦の味が口いっぱいに広がって翠さんみたいになんだか安心する味。
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