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「ねえ、おかしいよ。絶対何処かで間違えてる。それとも道がループになってるの?」
「ナビ通りに走ってるだけだ」
「でも……」
正輝は青い顔をしながら車を走らせた。しかしもうあれから1時間は経っている。集落が見えるどころか、またお地蔵さんが見えて来た。
「参ったな……」
「これって、キツネに化かされてるって現象?」
「そんなの迷信だよ。そんな事あるわけがない」
「でももう何回目? 屋根に傷付いちゃうんじゃないの?」
「じゃああの枝を片付けよう」
正輝は車を停めて外に出た。道に垂れ下がっている枝を引き寄せるとポキンと折った。
「これでもう屋根は大丈夫だ。降りたついでだからちょっとトイレ」
そう言って正輝は藪の中に入って行った。男は何処ででも用を足せて羨ましい。私だってずっと我慢してるのに。でも、誰もいないのなら……。そう思って私もティッシュを持ち車の外に出た。どこかいい場所はないだろうかと藪の中に入った。ちょうど背丈ほどの藪に囲まれた小さな空間があった。私はそこで用を足す事にした。
「おーい、実果。何処にいるんだ?」
正輝の声がしたので慌てて下着を上げた。見られなくて済んだとホッとした時だった。ガサッと音がして何かが目の前を横切った。フサフサの尻尾が見えた。
「正輝お待たせ」
「実果もトイレか?」
「私だって我慢してたんだから。それよりさっき何かがいたんだよ」
「何か?」
「多分狐か狸。尻尾がフサフサしてた」
「そうなんだ。やっぱりこの山にはいるんだな」
「あれ、さっきは信じないって言ってなかった?」
「それは化かすって事。狐も狸もただの動物だよ。道を迷わせるような事はしないよ」
「だったらいいんだけど」
そう言いながらも正輝は車を発車させられずにいた。また同じ道をぐるぐる走るのではないかと不安なようだ。
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