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「え……何で? あのお地蔵さん、何で? 正輝Uターンしたんだよね?」
「したよ……実果だって知ってるだろ!?」
正輝は強い口調でそう言った。確かに方向を変えたのは知っている。車だって町に向かって下り坂を走っている。それなのに何で?
車は走り続けた。確かに下っている。そろそろ町の明かりが見えてもいい頃だ。それなのにいまだ山の中。何かがおかしい。そう思った時、前から車が来た。さっきの車と同じ色の車だ。そして道の脇には……お地蔵さんが。
「もうやだ……帰ろうよ」
「帰ってるだろ」
「だってまたお地蔵さんがいるんだよ。何で?」
「俺が聞きたいよ!」
正輝は急ブレーキをかけ停車した。
「このボロナビが!」
そう言ってナビを叩いた。ナビの画面は山の中の1本道だけ。ずっと何時間も同じ画面だ。
「参ったな……」
ナビの画面を指でなぞる。少しだけ画面が移動すると人家や店の名前が表示された。あと少しなのに、ほんの少し進む事ができれば町に出られるのに。そこまで行く分のガソリンはある。でもこのまま走り続けたら……。燃料計の目盛りはあとひとつしかなかった。
このまま明るくなるのを待った方がいいのだろうか。私と正輝は口をつぐんだままナビを見つめていた。そこへ前方からライトが迫って来た。またあの車だろうか。車はこちらに近づいて来る。そして車は徐々にスピードを落とし、反対側の路肩で停まった。
車のドアが開いた。中から誰かが降りてきた。背はそんなに高くない。猫背っぽい姿勢。その人物がジャンパーの帽子をかぶりこちらへ近づいてくる。私と正輝は息を飲んだ。思わずドアのロックボタンを押した。
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