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コンコン、とその人物は運転席の窓ガラスを叩いた。暗い上に帽子をかぶっているので顔は見えない。何やら話がありそうだが正輝は窓を開けようか迷っていた。
その人物は帽子を外した。そして私たちに向かってにっこりと微笑んだ。その頭はツルツルで、顔にはシワが刻まれていた。でも悪い人には見えなかった。
「傘を……」
私は後ろの座席から傘を取り出し正輝に渡した。正輝は慌ててウインドウを開けお爺さんに傘を差し出した。
「これはご親切に、ありがとうございます」
お爺さんは早速傘をさし、私たちに一礼した。
「あの、ちょっと伺いますが、私の車と何回かすれ違ってはいませんか?」
私と正輝は顔を見合わせた。
「実は僕たち村に向かっていたんです。でも道を間違えたのか……中々着かないんです。なのでもう遅いので引き返そうとしていた所です」
「村ですか。私は村にある寺の住職なんですがね。私も村のお婆さんに頼まれごとをされまして、出かけたのはいいんですが、帰れなくなってしまったんですよ」
「え、ご住職もですか? 村の方なら道も良く知っているでしょう?」
「そうなんですよ。もう何年、何十年と通ってる道なんですがね。何故か今日は迷ってしまったみたいです」
住職は眉をひそめた。
「昔、1回だけ、同じ事があったんです」
「え?」
「20年くらい前でしたか、この山の向こうの海辺の町に大きな地震が来た時の事です」
「ああ……」
私はまだ小さかったし、うちの方は殆ど揺れなかったので記憶にはない。でもお祖母ちゃんの家は物凄い衝撃を受け、古かった事もあり倒壊してしまったそうだ。そしてその時お祖父ちゃんは家の下敷きになってしまった。
家を無くし村での生活ができなくなったお祖母ちゃんは、それから私の家で生活をするようになったのだ。
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