4、この手は離さない

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「僕……ずっとね、ヒロに愛想尽かされるのが怖かったんだぁ」 星の瞬き始めた夜空に向かって、響司は独り言のようにそう言った。 「愛想を……尽かす?俺が??響司に???」 返ってきた言葉があまりに想定外で、広喜は目を白黒させながら声を上げた。響司はそれを聞いて、ヒロはやっぱり優しいねと笑った。 「だって僕、いつもヒロに頼ってばっかりでしょう?受験の事だって……。僕は家でも学校でも一緒に居られたら嬉しいけど、きっとヒロは僕から離れて過ごす時間が必要なんだなって思って……」 「……え?だから最近、俺のこと避けてたのか……?」 うん、と響司は頷いて笑った。 「長く一緒に居るには、お互いに別々の時間を持つのも大事だよって、あの子達に言われたんだ。何度訊いても志望校教えてくれないのだって、きっと大学生になってまで僕のお世話し続けるの、ヒロはもう嫌なんだなって思ってさ。だから、一人でもちゃんと出来るってヒロに見せて、安心して貰いたかったんだ」 「響司……」 広喜は自分の言葉足らずのせいで、響司にそんな想いをさせていたのかと大反省した。 響司が言うには、あの女子達に話し掛けたのも、広喜と繋がりの無い人と友達になるのが目的だったらしい。自分の友人は皆、広喜を通じて知り合った人ばかりだから、と。 「もし大学で僕が一人でいたら、ヒロは心配になるでしょう?」 「……それはまぁ、確かに」 「だからね、僕一人でも友達……までは無理でも知り合いが増やせるって証明出来たら、ヒロも安心してくれるかな、って」 「なる……ほど??」 分かるようで分からない独特な理由に、広喜は苦笑いした。でもそれも響司なりに一生懸命考えた結果なのだと思うと、愛しく感じてしまうから不思議だ。 「僕は女の子は恋愛対象じゃない……っていうかそもそも苦手だし。だからこそ、ちゃんとそういう人とでもコミュニケーション取れる人間にならなきゃって思ったんだ」 あの子達と話すきっかけは、響司が落とし物を拾ったことらしい。けれどいざ話してみたら、勉強に恋愛にと何事にも一生懸命な彼女達とはあっという間に打ち解けて、色々と相談に乗ってもらっていたのだと響司は言った。 「ちょっとは成長出来たつもりでいたのに、今日も結局またヒロに守ってもらっちゃって、情けなくて……」 そう言って涙目でエヘヘと響司は笑った。 「本当に何にも出来なくて……ちっとも変われない。こんなんじゃ、僕、ヒロに呆れられちゃうよね」 そう思ったら、たまらず走って逃げていたのだと響司は告げた。 その笑顔が切なくて、広喜は思わず響司を引き寄せギュッと抱き締めた。 「響司に呆れたりなんかしないよ。不安にさせて……ごめん」 「僕こそ……ごめん」 響司は広喜にしがみついて、そう言って静かに涙を零した。広喜は震えるその背中を優しく包み込んだ。 「ヒロの重荷になりたくないのに……上手くいかないなぁ」 小さく、けれど心の奥底から吐き出されたその言葉に、広喜はたまらず声を上げた。 「待って、響司。それは逆じゃない?!」
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