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「響司~アイス食う前に制服着替えろ~。あと手ぇ洗え~」
放課後、家に入るなり冷蔵庫に一直線に向かおうとする響司に、広喜がそう声を掛けた。
「……はぁぁい」
響司は不貞腐れつつも素直に広喜の言うことをきいて手を洗い、勝手知ったる様子で引き出しからTシャツと短パンを取り出すと、それに着替えた。
再び冷蔵庫へと向かう足取りは、飛び跳ねるようにウキウキだ。
「ふふふ~♪今日はコレって決めてたんだよね~」
響司は弾んだ声で冷凍庫の中からカップアイスを1つ取り出して高く掲げた。広喜がアイススプーンを手渡すと、響司はその蓋をコンコンと叩いて嬉しそうに笑った。
ちなみに、この“カチカチのアイスを食べる用スプーン”は響司専用だ。いつも柔らかくなるまでじれったそうにしている響司を見て、広喜がプレゼントした物だった。
「決めてた、って……俺が昨日の夜ソレ食べちゃってたらどうするつもりだったの?」
「え~?まぁその時はその時!」
ヒロんちの冷蔵庫だしね!と歯を出してニシシと響司は笑った。その愛らしさに、広喜はたまらず彼の頭をグシャグシャと撫でた。
「もぉ~、何?!」
「響司が可愛すぎるのが悪い」
「アハハ!何それ!!意味分かんない!」
満更でもない顔で照れ隠しの悪態をつく響司に広喜はたまらずキスをした。
「……それはズルい」
そう言って真っ赤になって俯く響司のおでこに、広喜はまたキスをした。キスなんか、もう何度もしているのに、その度にこうやって恥じらう姿が愛しくて仕方ない。
コンロからお湯が沸いた音がしたのを合図に、響司は逃げるようにキッチンからリビングへと走っていった。
「紅茶でいい?」
「……うん」
広喜はアイスのお供の温かい飲み物を用意すると、響司の隣に座った。小さな口に大事そうにアイスを運ぶその頬は、まだほんのりと赤かった。
この男子高校生と思えぬ可愛らしい生き物は外城田響司(ときたきょうじ)。
広喜の自慢の恋人だった。
そう。響司は出会った時から群を抜いて可愛かった。
あまりの可愛さに、最初は緊張して近付くこともままならなかった程だ。
それが恋心だと気が付くまでに、さほど時間はかからなかった。
響司と広喜の出逢いは中学2年に遡る。
広喜の家の近所に響司が引っ越してきたのだった。
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