1、甘い時間

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「転校生です」 と紹介されたまだあどけなさの残る中性的な少年に、広樹は一目で心を奪われた。誰かを綺麗だと思ったのはこれが初めてだった。 きっと他の皆もそうだったのだろう。男女を問わず好奇の視線が彼を包んだ。 「あ……えっと、外城田響司です」 響司は透き通るような白い肌をほんのりと赤く染め、ペコリと頭を下げた。 「好きな物は何ですか~?」 クラスメイトからそんな質問が飛ぶと、響司はオロオロとしながら口を開いた。 「好き……好き?」 困った様子の彼に「食べ物とか!」とまた声が飛んだ。 「食べ物……あ!アイスクリームが大好きです!でも……それ以外の甘いお菓子は、苦手です……あと、えっと……」 話す途中からザワザワとし始めるのに比例して、響司の声は消え入りそうに小さくなっていった。 「ナニソレ~」 「可愛い!」 女子達は嬉しそうにクスクスと笑っていたが、響司は何故か青ざめた顔で引きつったわらを浮かべていたのだった。 広喜はその様子を教室の後ろの方から眺めながら、彼の本当の笑顔が見てみたいなと思った。 そうして数日の間、あれやこれやと聞き出そうとする人が入れ替わり立ち替わり響司の席に訪れた。広喜は遠くからその様子を羨ましく眺めるばかりだった。 しかし不思議な事に、日に日に響司はの周りから人が減っていき、一週間が経つ頃には一人ぽつんとしていることが多くなっていた。 広喜はすかさず周囲に探りを入れてみた。 どうやら響司の言動がよく分からず、皆だんだんと気まずくなって近寄らなくなったのだということだった。 広喜はそれを聞いて、ようやく勇気を出して響司に話し掛けに行った。 よくよく話を聞いてみれば、響司は単に「アレ」とか「コレ」とかいう、曖昧な言葉が苦手なだけだった。どうやら本人もその特性に無自覚だったようで、何に困っているのか上手く伝えられず困惑していたのだった。 どうやら前の学校でも、そのことで随分苦労したらしかった。 広喜が周囲にその特性を説明すると、響司はようやくクラスに馴染むことが出来たようだった。 それからというもの、響司は広喜にべったりと懐いた。気が付いた時には響司は広喜の家にほぼ毎日遊びに来るようになって、さらに週末や長期休みには時々泊まりにもくるようになった。 そうして食器、歯ブラシ、服……と、時間が経つ毎にどんどん響司用のものが広喜の家に増えていった。彼の為のアイスが広喜宅の冷蔵庫に常備されるようになったのは言うまでもない。 口には出さなかったけれど、広喜はそれが本当に嬉しかった。 例え友達でも、自分が誰より一番響司の近くに居る証拠のような気がして……。 一緒に過ごせば過ごすほど響司に対する気持ちが大きくなって、堪えきれずに告白したのが1年前。 うん、と赤く頬を染めた響司が小さく頷いてくれた時は、天にも昇る気分だった。 そうやって晴れて恋人になったものの、今日までほとんど二人の関係に変化は無い。たまにキスをしたり、可愛いとか好きだとか言うのを我慢しなくてよくなったぐらいだ。 けれど広喜はそれで充分幸せだった。
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