1、甘い時間

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1、甘い時間

「いけーー!」 「こっちこっちー」 「そっち空いてるぞ!」 「走れ~!!」 ダムダムとボールの跳ねる音と、ヤジなのか応援なのか微妙なラインのざわめきに体育館は包まれていた。 バスケットコートの中では、男子生徒達が汗をきらめかせながら縦横無尽に走り回っている。その中の一人が相手チームのパスを鮮やかにカットして、自陣に鋭く切り込んでいった。 「外城田こっち、パス!パース!」 クラスメイトの声が響きわたった。 けれど前方で手を上げ声を出してパスを要求されたにもかかわらず、ボールを持った本人はドリブルをしながら狼狽えるばかりで、直ぐに追い付いた敵チームにパスコースを塞がれてしまった。 けれどその瞬間──── 「響司!右45度前方!小宮!」 コートの外からそう声がかかった。すると先程のモダモダが嘘のように見事にパスが決まったのだった。 「ナイッシュー!!」 彼からパスを受けた小宮がゴールを決めると、一気に場内が沸いた。これで同点だ。 「ヒロ、ありがとー!」 響司と呼ばれた少年は満面の笑みで振り返って、コートの外に向かってブンブンと手を振った。ヒロと呼ばれた少年も、愛おしげに微笑みながら軽く手を振り返した。 「おーおー、相変わらずラブラブなことで」 ニヤニヤしながら肩を組んできたクラスメイトの御堂の腕を、ヒロこと矢内広喜(やないひろき)は「うるさい」と言いながら軽く払いのけ、再びコートの中へと視線を戻した。 「響司!スリー!」 広喜が叫ぶと同時に、今度はスリーポイントラインから綺麗な放物線を描いてゴールの中にボールが吸い込まれていった。 ピピーーッ! ゴールネットが揺れる音がするのと同時に、試合終了のホイッスルが鳴った。 「よっしゃ~!逆転!!」 「勝った~!」 勝利チームが歓喜に沸く中、逆転のスリーポイントシュートを決めた響司だけが、彼らと喜びを分かちうよりも早く、コート外へと一直線に駆けてきた。 「ヒロ~!ヒロ凄いっ!流石っ!ありがとう~!」 響司は広喜に抱き付いて嬉しそうにピョンピョンと跳ねた。 「逆転のスリー決めたのは自分だろ」 そう言いながら広喜は満更でもない顔でポンポンと響司の頭を叩いた。 「ヒロがタイミング教えてくれなかったら無理だったもん!」 拗ねた顔で響司は彼の両頬を軽くつねった。 「ハイハイ、まったくお熱いことで………」 先程から隣で二人のやり取りを見守っていた御堂が呆れたように頭を掻いた。 「御堂くんも応援ありがとう!」 「御堂、ウルサイ」 ほぼ同時に二人が顔を向けて言うものだから、御堂は大げさにウンザリした顔でため息を吐いた。 「はぁぁぁ……毎度毎度、まったくお前らときたら授業中だってのに……」 「羨ましいだろ?」 広喜にドヤ顔で言われた御堂は「バーカ!」と言って、もう一度ため息と共に首を振った。 「あぁもうっ、ハイハイ!次!次!俺達のチームだから行くぞ~、矢内」 御堂はそう言って広喜の背中をポンと軽く叩くと、コートの中へ走っていった。 「ヒロ頑張って!」 「お~!」 響司に笑顔で送り出されたヒロは、見てろよと言わんばかりにニヤリと笑った。 そうして再びミニゲームが始まると、体育館がまたガヤガヤと沸いたのだった。
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