1話

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1話

 今は、日曜日のお昼。僕は、読書という趣味の為、そして冷房節約の為、図書館へ入り浸っていた。  外では蝉がミンミンと鳴き、歩いている人は日傘を差したり、扇子を仰いでいる。  僕は今、図書館の外にある自販機の前で、何を買おうか迷っている。水筒の中身が尽きてしまったのだ。スーパーは遠く、この炎天下の中そこまで歩けるわけが無い。  財布の中身は200円。あれ、こんなに少なかったか…?いや、しかしつまり、1本。  水という選択肢は無い。僕は、味があるものが好きだ。  お茶?量は多いが、特別感が少ない。Cランクぐらいのレアリティである。  ならば炭酸…うん、これが良い。喉が渇いているし、好きな種類だ。  では次に、なんの炭酸にするか。  コカコーラ…うーん、普段ならこれなのだが、今日は少し特別感を味わいたい。  三ツ矢サイダー。ぶっちゃけ、これも美味しいけど、アサヒ飲料。すなわち、コカコーラの敵である。これは、ペプシなんかにも同じことが言える。  というより、コカコーラとコカコーラゼロ、ペプシの違いぐらい、すぐに分かる。まるで違う、コカコーラ派の僕にとって、ペプシは敵以外の何者でもない。  話を戻そう。コカコーラ社のコカコーラ以外の炭酸。今僕が求めているのはこれだ。  さて、ここまで考えて答えは出た。これだ。僕がそのジュースにボタンを触れようとした時だった。 「あれ〜何飲もうとしてるの?」  突然、背後から声がした。思わず、ボタンを押そうとした手を元の位置に戻して、声の主の方を向いた。 「…いや、まぁ……その、水筒が無くなって………」  何故だ。何故彼女がここにいる。  僕のような陰キャに相応しい人間でも知っている。彼女はクラスの人気者。マドンナ…というのが近いか。とにかく、僕のような人間が喋ったりして良い人間ではない。  そんな彼女が今、後ろで手を組んでジッと僕の事を見ているのだ。  …これはすなわち、奢れ!という意味か?いや、彼女がそんなふうに思ってなくとも、僕に拒否権は無い。 「もしもーし?」 「え?あ、ご、ごめん…何?あ、ジュース買う?」  彼女の言葉に思わずそう返した。違うそうじゃない。いやというかマドンナが話しかけてるんだからもう少しこう良い感じに返せないのかこのド陰キャが。  と、自虐していると、彼女は少し笑っていた。あ、やばいやつだ。確実に…嘲笑ってるそうに違いない。 「うーん、ジュース買いに来たっていうか……佐藤くんが買おうとしたの見ちゃったから、話しかけたんだよね〜。クラスでも、あんまり話さないでしょ?だから、こういう機会にって思ってさ」  ?????ダメだ、思考が上手く働かない。これもうある種チェックメイトだろ。え?マドンナさんが?僕の為に?ここまで来て?話しかけてくれた????え???  漫画?ドラマ?アニメ?いやでも、現実は小説より奇なりとかなんとかって言うし? 「え、えっと…僕なんかと話しても、面白いことないよ……」  よし、よく返した僕。この明るい朗らかな空気感を纏う彼女と、これ以上話してるともうそろそろ僕の存在消えるから、ここは断ろううん。さらばだ。 「そんな事ないよ〜」  ばしゅっと否定されましたもう無理です。ちょっと、こういう時の対策書いてある本2000円までなら買うから出してくれ。 「え?い、いやいやいや!栗橋さんが面白い話題なんてないよ!!」  そうだ。僕はこのままジュースを買って帰るんだ。うん、もうそうしよう。奢って?って言われて奢らなかったら、明日栗橋さんのファンの皆様に刺されるかもしれないけど、それより早く帰りたい。 「…うーん、まぁそこまでいうなら止めないけど…」  栗橋さんがそう言った瞬間の僕の行動は早かった。素早く、ファンタグレープのボタンを押し、出て来たジュースを掻っ攫う。そして、そのままくるりと逆方向を向いた。ここまで3秒。 「え!?本当に行くの!?」 「う、うん…えーと、それでは……」  一瞬だけ、栗橋さんは驚いたような表情を浮かべていたけど… 「うん、分かった!それじゃあまた明日ね!!」  と言ってニコッと笑うと、どこかへ去っていった。 「………死ぬかと思った」  そう呟くと、僕は家へと足を進めた。もう流石に図書館には戻れない。  そこでフッと意識を失った。 「…………あーあ。やっぱりダメそうかぁ」 To be continued
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