助奏obbligato

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助奏obbligato

 東京へ帰るまで残り一週間というところで、自画自賛から僕へのお誘いが来た。  僕に、だ。なんでだよ。  あの日、亡者の元を訪れた後に改めて予定を組み、亡者と奏者、そして表の仕事が一段落して合流した銀色は、筧分家の屋敷があったであろう場所に調査に向かうこととなった。  さすがに僕は銀色がいるならそこまで介入する必要は無いか、と思って自分の勉強を優先し、協力出来ることがあれば、と空き時間で過去の資料を亡者に借りて調べ物を進めていたのだが。  筧分家の跡地には行かない方がいいだろうという亡者の助言によって取り残された自画自賛が、何だか寂しそうに訪ねてきたのが数分前のこと。  出迎えたのは棗で、事態が呑み込めずにキョトンとしているところに僕が慌てて出て来た、というわけ。 「何しに来たの?」 「邪険にせんとってや。折角やし、みどりさんやら便利屋さんが分家を調べてくれとる間に、本家の話でもしよかな、て。姉やんも今日は手ぇ空いとるから、良かったら赤月から借りとる俺らの拠点にでも行かへんかなって」 「良いの?そういうのって秘密なんじゃ」 「表向き、俺ら姉弟も一般人として生活しとるからさ。普段は姉やんの自宅ってことにして一人で暮らしてはんねん。俺はみどりさんとこに居候しとるからな」 「あー……住民票に記載するための所在地、的な?」 「そんなとこや。俺と姉やんが今まで調べてたことも改めて共有したいし、何なら電話かなんか繋ぎながら向こうの三人と情報擦り合わせてってもええし。時間、無い?」  幸い今日はもう用事は済んだ。葬送屋さんも仕事に戻ったし、暇と言えば暇か。  でも、向こうが二人ならこちらが一人で行くのはちょっと気が引けるというか、一応警戒して人を連れていきたいところではある。  僕は、ちら、と棗を見た。 「私もついて行っていい?」  僕の言わんとすることを察してくれて、棗はそう尋ねる。  流石である。絶対悪の頭だったかなんだか、頭脳派の立ち位置にいた彼女は、状況の判断能力に長けている。 「勿論。人が多い方が目も多くなってええやろ。どうしたって見落としはあるやろうしね」  自画自賛はなんだかちょっと嬉しそうにうんうんと頷いた。
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