助奏obbligato

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「もしかして、ご主人様と別行動するの寂しかった?」  聞いてみれば、苦笑いが返って来る。 「寂しいっていうか、筧という家の異質さとか、赤月との関係性とか色々考えてもうてあかんねん」 「それは、従うしかない自分の立場がもどかしい感じ?」 「どうやろ、ハッキリとはよう言えんのやけど」  嫌だ、ついて行く、と言えなかったことや。  筧の本家と分家の間にある隔たりや。  赤月に使われるものである自分と、あくまでも『協力者』でしかなかった分家の者達との違いや。  思うところは色々あるだろう。  自画自賛は子供と言っていい。まだ十代だ、高校生くらい。 「自画自賛ってさ、学校とか行ってないの?」  彼自身のことを知りたくて、僕はそんなことを聞いた。 「通信制やで」 「ちゃんとお勉強はしてるんだ」 「一応な。一般常識位は知っとこうかな、くらいのヤツ」  こういう世界に生まれついて生きてきた彼に、青春なんてものはないんだろうな。 「きっとこんなことを聞くのは酷なんだとわかってるけど、訊いていい?」 「何やそれ、訊いてくれへんと答えられるかどうかなんて分からんよ」 「なりたいもの、ある?」  やはり、自画自賛はキュッと口を閉じた。  僕の隣で棗がため息をつく。 「夢路ってたまに残酷なこと言うよね」  棗の意見は大正解だ。僕は酷いことを訊いている自覚がある。  血筋や家に縛られた存在に、自分の願望は無いのか、なんて。  叶わぬ夢を思い出させてしまう。 「……強いて言うなら」 「あれ、答えてくれるの」 「強いて言うならやで。舞台に立つこと、やな」  忍とは真逆の、表舞台。  もしかすると、影であり続けなければいけない自身の立場に思うところがあるのかもしれない。 「俺、派手なカッコしてるやろ。普段から道端でジャグリングとかしてお客さん集めてお小遣い稼ぎしてんねん」 「そうなんだ。器用そうだもんね」  ちょっと見てみたいな。 「せやで。楽器も弾けるし、ダンスも踊れるし、そんなん全部楽しいんよ」 「好きなんだね、パフォーマンスすることが」 「うん。やから、忍なんて立場が無ければやりたいこといっぱいあった」  そう言いながらも表情も変えない自画自賛に、切なくなる。  強いんだろう。全て捨ててこの世界で生きる覚悟を持って生きてきたのだから。 「ごめんね、本当に酷な事だった」 「ええよ。ほな行こか」  にぱっと笑う自画自賛は、とても可愛かった。弟っぽいと言うか、ちゃんと十代の子供だ。  でもきっと、この子もまた、子供でいることが出来ずに大人になるのだろう。
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