助奏obbligato

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「例えばそういうものに人間が使われることはある?」  曲屋研究所で行われていた『最強』の人間の研究は、棗にとって痛い過去だ。  しかし、そういうことを考える人間が他にもいないとは限らない。  兵器という分類の中にそういう戦力も含まれるのなら、あるいは有り得るのだろうか。 「時田家は曲屋研究所の研究にも協力はしていたはずだし、もしかして赤月みどりがそういう研究結果とか資料とかを赤月家に譲渡していたとしたら、私は……あまり、関わりたくない」 「ないわ、それは。みどりさんは研究のことは全部捨てた、言うてたし、俺も文書で残っとるもんがないのは知っとる。みどりさん自身も頭はかなり良いけど、資料無しに研究を再現できるような、そこまでの記憶力はない」  そんなものを全て記憶しているとしたら、余程の能力だ。可能なのは研究対象であったサヴァンの絶対悪や、記憶回路をどうにかして人工のサヴァンにされてしまった絶対零度だけだろう。  棗は静かに考える。  記憶というものは曖昧で、都合よく改変されるものだ。確実なデータを頭に残すことは難しい。  それでも、苦しかった記憶は、痛々しい気持ちは、悲しいくらいに残る。  棗にはそれがある。  僕は詳しくは知らないが、兄が研究の『材料』にされたのを、そして結果的に死んでしまったのを、棗はそばで見ていたはずだ。  その痛みを繰り返すのが怖いのだろう。 「正直、頤が人を『調教』していた、という事実だって私にはあまり受け入れられないというか……」 「せやろなぁ。結局人を道具として扱っとる、いうことやもんね。けど、棗さん。貴女自身が家族に身を捧げるのと、筧が赤月に誠心誠意仕えるのとは、そう変わらんことなんよ。少なくともうちはそう思っとる」 「赤月は家族みたいなものってこと?」 「うちにはね。せやから、弟を見つけたら教えてあげたいねん、家族を」  優しく笑う自業自得は、確かに愛情に満ちた表情をしていた。 「……信じるよ、私。その代わり、本当に弟さんが見つかった時にちゃんと保護しなかったら、奪い取るから」 「嘘は言わへん。ちゃんと弟を守りたいから探すんよ」  弟を探し出したその先を危惧していたらしい棗だったけれど、自業自得の答えに安心したらしい。  気持ちを切り替えた彼女は、積極的に資料を見ながらあれやこれやと情報を確認していく。  絶対悪の頭であった彼女は、情報戦が一番得意であるはずだ。考えること。推理すること。人を読むこと。 「筧の分家が本家と関わることはほとんど無かった?」 「無いな。情報を知ってんのは俺が調べたからであって、こっちがアクションせんかったら名前も知らん人らや」 「分家というのは一家族だけ?血縁関係はどう?」 「遠い昔に繋がってただけの、苗字が同じ違う家やと思ってええ。親戚がいるような話は聞いたことは無いわ。逃走した時の親子は祖父母もおらんかったし夫婦と兄妹の四人きり。父親には兄弟はおらんくて、母親はいわゆる家出少女やって、家族との関係が切れとる」
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