助奏obbligato

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「とりあえず一旦家を見てくるよ。自画自賛とどっかで出会ったら捕まえておく」  僕はそう言って立ち上がる。  今はとにかく奏者の安否の確認が必要だった。  途中まで電話がかけられたってことは自分で電源を落としたか、或いは誰か第三者の手によって落とされたか。  どちらにしても『意図的』であるということが重要だ。  来る時は車を借りて来ていたので、とりあえずそれに乗って一旦野江家へ戻る。 「おらんかったで、兄やん」  着いたところで、声をかけられた。 「自画自賛……君ね、声くらいかけてから出て行きなよ」  にゃは、と笑う。  自画自賛はこちらへ先回りしていたようだ。 「筧の分家の住所、夢路さんは聞いとるんやろ?」 「まあ、一応」 「ほな次はそっちやな」  まあ、道中痕跡があるかもしれないしな。  ナビに住所を入力し、助手席に自画自賛を乗せる。 「離れないでね、僕弱いから何かあったら君が頼りだし」 「任せんしゃい」  とりあえず暴走している訳ではなさそうで良かった。   僕達は亡者に聞いていた住所へ向かう。途中で見つかればいい、と期待したけれどさすがにそううまくはいかない。  辿り着いた場所はお決まりの廃墟だった。こちらは堂々と朽ち果てている。 「……兄やん、大丈夫かなぁ」 「心配……だよね」  心配するなと言ってやりたかったのだけれど、無理だった。だって、僕もめちゃくちゃ心配してるし。  記憶をめちゃくちゃにされた奏者が一つずつ拾い集めている過去の痕跡は、果たしてどこへ彼を導くのだろうか。  その先にあるのは、何だろうか。  僕は思うのだ。  あるのは、『覚醒』なんだろうな、と。  足りなかったものを全て取り戻したら、奏者はどうなるんだろう。別人になってしまうのだろうか。  この廃墟には何があったんだろう。奏者の記憶を埋める、何が。 「ああ、夢路!奏者は見つからないか?」  と、廃墟から出てきた銀色がこちらに気づいて手を挙げた。
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