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「銀色……いや、どこにもいなくてとりあえず通った道を辿ってきた感じ」
「そうか……あいつの事だ、大丈夫だとは思うが」
僕は廃墟の方へ視線を向け、考える。
嫌だけどなぁ、と、自分の中で前置きを飲み込んで。
「銀色、僕もこの中を見てみたい」
さすがに銀色は眉をひそめた。
「言っただろ、カラカラの死体が転がってるって。それも形を留めてない」
「バラバラってこと?」
「亡者が平気そうな顔で死体を掻き集めて並べていたけど、人一人を形成できるパーツの量を超えていそうなのにどれも不完全だって言ってたからかなりバラバラにされて朽ち果てたか別の場所に棄てられたか……」
「……僕は葬儀屋だから、大丈夫」
ここにある遺体はどれももうエンバーミングどころか死化粧の施しようもないのだろうけれど、弔いくらいは出来るだろう。
「君はどうする……」
自画自賛の方を振り返ると、ケロッとした表情で僕を見ていた。
「誰にもの言うてんねん」
「だよね。一緒に行く?」
「当たり前やろ」
彼は裏の世界で生きてきたのだ。愚問だった。
銀色はまだ不安そうだったけれど、それでも引き留めずに着いてきてくれた。むしろ何かあった時にすぐ連れ出すためだったのかもしれない。
中に入ると、亡者が遺体を並べる作業を続けていた。
「来たのか、結局」
「不可抗力ってことにしとこうや」
「まぁいいけど」
ああ、うん、これはまぁ見せたくないよな。
そう思うような光景が目の前にある。
ミイラが並んでる、みたいな感じなんだけど、どれも部分的に欠けている。
「自分の記憶では……筧陽世について調べた時、この家の存在に行き着いたのは誰かの情報提供があったからだった」
亡者がこちらを見ないままそう言う。
確かに、住所をきちんと記録してあるわけでもなく赤月からも頤からも独立した存在であった筧分家の家を特定する方法など、思いつかない。
「その誰かが誰だったのか、自分の予想だが恐らく自作自演と呼ばれる男……筧一錠ではないかと予想を立てている」
その名前を聞いた瞬間、自画自賛が緊張で息を飲んだのがわかった。
筧一錠。名前だけしか出てこないけれど、一体どんな人なんだろう。
「自画自賛」
「……」
「この殺し方は自作自演じゃないか」
バラバラに、完膚なきまでに壊される。
殺す、と言うよりは破壊だ。これは、破壊行為。
「自作自演には関わらない方がいい」
「無理やろ、俺……俺の目的はわかっとるやん、みどりさんは」
苦しげな声。
もしかして、自画自賛が今の立場から逃げる、ということはその、自作自演と呼ばれる筧の長男と敵対する、ということなんだろうか。
だからそれに準えて育てられた弟を自分の手元に置きたかったのか?あるいは敵対する前に処分したかった、ということか。
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