助奏obbligato

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「お前、これに勝てると思うか?」  頭部の数は十を超えている。 「これが自作自演本人のやった事か、あるいはそれを模倣した筧四錠のやったことかは分からないけれど、どちらにしても力の差があり過ぎると思うよ」 「わかっとる!わかっとるよ……でも……」 「潰さないと追われる、だろうな」  そこで銀色がストップをかけた。 「君達さ、俺に事情の説明はなしか?」  前回自画自賛が頤を壊滅させた話をした時は銀色は不在だった。話が見えないのは仕方がない。 「いや、奏者は情報共有が下手なやつじゃないから遠回しにそれとなく君達……いや、自画自賛の思惑は伝えてくれてはいるけど、直接聞きたいところだな。今後の展開も含めてさ」  自画自賛が頤を壊滅させたであろうことは奏者も予想していたからわかるだろうが、自画自賛が筧を機能しないようにさせようとしていることについては何の説明も無い。  奏者は、巻き込まれるのが嫌だろうからと銀色には自画自賛の本来の目的は明言していないだろう。  自画自賛は黙って考え込み、亡者はそれを見守っている。  僕はとりあえず並べられた遺体に手を合わせ、ふう、と深呼吸した。  ああ、嫌な空気。でも、呼吸が出来ないよりは良いか。 「俺が……兄やんの両親とか親戚とかを殺した時は、めちゃくちゃ計画的に、懐に入ってから実行したんよ」  ようやく口を開いた自画自賛は、自分が頤を壊滅させた時のことをぽつぽつと振り返り始めた。 「頤が全滅したのは二、三年前だったか。君はまだ中学生だな」  銀色の声は優しい。どこか、憐れむような声だ。 「年齢なんて、関係ないやろ。こんな世界や、女子供も侮れんよ」 「そのようだ」 「名前を偽って兄やんの両親に近づいて、自分は赤月の雇った研究者の親族で、赤月の力になりたいんやって嘘をついた。頤はそういう人間関係とは遠い存在やったし、俺もそれなりの身分をちゃんと作り上げてから近づいたから、割と受け入れられるのは早かった」  そして、上手いこと気に入られた自画自賛は、頤の弱みを調べていくその過程で奏者の病気の事も知ったのだろう。 「俺なんてそんだけめちゃくちゃ計画的に、長期的にやってようやく数人の一家を潰せるくらいやのに、やっぱり一錠も四錠もおかしいやろ。これ、絶対一瞬で終わっとるやん。一晩とかでこんな十数人も殺せるんやで。おかしいやろ」  きっと。  きっと自画自賛は、怖いのだ。  こんな人間の仕業と思えない圧倒的な破壊力を持った兄弟がいることが。 「君の本当の目的は?」  銀色の問いかけに、自画自賛は答えようとして口を閉じた。
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