助奏obbligato

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「姉やんと電話繋がったままやろ、あんた」  あ。  自画自賛が、深いため息をついた。  ここまで語ってしまった後に気づいた事に、落胆しているようだ。  銀色はハハ、と申し訳なさそうに苦笑する。 「バレたか」 『折角弟の本心が聞ける、思たんに。察しがええわぁ』  スピーカーから、自業自得の声。 『でもねぇ、三錠。うち、裏の世界からは少し離れたところにおるけど、それでも唯さんと由良さんに忍としてしっかり育ててもろてるんよ。情報網やら行動力やらは負けとるけど、相手を信用せんことにおいては親兄弟も関係無くちゃんと割り切っとる』 「赤月唯の手がかかっとるもんに俺が適うわけないわな」 『言うてみぃ、ホンマは四錠を殺す気で探しとるんやろ』  四面楚歌とはこの事か、三錠の表情は苦しそうで、なんだか胸が痛い。 「姉やん」 『怒らんよ』 「……怒らなあかんやろ」 『若いもんね、三錠』 「姉やんもそない変わらん」 『何になりたい?』 「……っ、違う、そんな、大それたこと」  夢を見るのが、大それたことだと。  そう思わなければいけないのが、筧の運命なのか。  いっそ俗世なんて見えない場所でひっそり任務を遂行するだけの存在であれば。 「そんなん、今はどうでもいいやろ。俺のことはおいといて、とりあえず兄やんのこと探さな」  自画自賛は無理矢理話を断ち切って、銀色の方を向いた。 「俺の思惑を知って依頼を破棄するんやったらそれでもええ。それは俺の落ち度や。兄やんのことも俺が変に巻き込んだんやわ」  自責の念に視線を落とす自画自賛に、銀色は「いや」と否定する。 「あいつは、多分もうちゃんと『オトガイトワ』に戻ったんだろう」  ……多分今のオトガイは今の音貝という名前ではなく、頤というかつての家の名を表していたのだろう。 「俺とあいつの、いずれ来る別れが今だという話だ」 「銀色、でも」 「俺は、元のあいつを知らない。色んなことを忘れて、記憶が曖昧で、ただ無邪気に瞬のことを慕うあいつしか知らない」  銀色だって、きっと奏者については思うことが沢山あるだろう。  あまりに不安定な存在である奏者を守りたくて、愛したかっただろう。  人間は嫌いだという銀色が、人形みたいな綺麗な顔をした奏者を気に入ったのは、おそらくただのきっかけに過ぎない。  だってやっぱり、この人は奏者の為に必死だったんだから。
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