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「依頼はやり遂げよう。俺は見つける所までが仕事だろ?その後のことは関係ないからな」
銀色はそう言って笑った。
「優しいなぁ、やっぱ」
思わず僕はそう言う。
「そうか?」
「優しいよ、なんだかんだ偶像崇拝のワガママにも付き合うし、奏者のことを守ろうとするのは分かるけど僕のことまで気にかけてくれるし、人嫌いなんて嘘だよ」
「うーん、そうなのかな?」
「銀色、多分僕と似てるよ」
「それはちょっと同意するなぁ、夢路とは気が合うんだ」
銀色もまた、理想を口に出来る人だ。
無駄な争いを好まず、大事な人を守ることを最優先にしている印象がある。
僕ほど甘ったれではないだろうけど、僕らはきっと、似たもの同士。
「で、銀色は奏者はどこへ行ったんだと思う?」
「意図的に電話を切ったんだろう?じゃあ自分の足で過去を探しに行ったんじゃないかって思ってる」
「攫われた可能性は?」
「襲われている真っ最中なら状況を知らせる為に電話には出るだろうし、攫われた後ならわざわざ携帯電話の電源を落としたりせずに捨てればいい。二つも持っているわけだから、どっちともちゃんと電源を切ったんだったらそれは奏者がやったと思うんだよな」
まあ、今時スマホにGPSとかもあるし、居場所がバレるリスクを考えても捨てるのが無難か。
「絶対とは言えないが、奏者の力量を考えても……いや、まぁ、攫われた可能性もあるか……うーん」
「何、どうして急に意見を変えたの?自分も理にかなってるかなぁと思ったところだったけど」
銀色が何かを思い出して悩んでいるのを、亡者は不思議そうに眺めながらそう言った。
「音さ。奏者は異常な程に耳がいい。良過ぎてこっそり近寄れないんだ。だからそもそも俺は奏者が不意打ちにあって攫われたりしないだろうと思っていたんだが……自画自賛、君は奏者の背後を取れるんだったな」
あ。なるほどな。
「一錠や四錠なら出来る、ちゅうこと?」
「そういうことだ」
『それやったら出来るんは兄の一錠だけやと思います。四錠は殺しは教わっても忍としてのそこまでの機微がまだ身についてへんはずや。頤はあくまで殺し方を教える機関やし』
電話の向こうで自業自得がそう言った。本職の人が言うのだから間違いないだろう。
だとしたら、この事件の裏でその人外的な殺しの才能を持った存在が動いているということだ。
「兄やん……」
『一錠に会って生きとる人間は見た事ないし、これに関してはホンマに……冗談でもなんでもなく、あの人の正体は少しもわからへん』
「容姿も、声も?筆跡とか行動の癖とか」
銀色の問いに首を振ったのは自画自賛だ。
「姿形は主人である唯さんも知らんし、声は発さないし文は打ち込みの文書で直筆の物は無い。癖、言うても仕事で暗殺する時は殺し方も変えてくるから、誰がやったかも分からんらしい。他人のやり口を真似たり事故を装ったり、色々や。あえて赤月の力を知らしめる時はわざと異常な程めちゃくちゃにする……この仏さん達みたいに」
「……赤月の、か。一錠個人の意思で殺すことは?」
「個人的な感情で動くことはほぼない。俺らにも共通の認識として言われとるんが、筧一錠は人に非ず、や。単なる殺戮マシーンってこと」
「ということはここがこんな状態なのもやはり赤月の意向ってことか」
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