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「カップル成立! おめでとうございます」
司会の女性は、気分を高めようと大げさに言った。その勢いにつられ、会場は拍手に包まれる。
今回の会場は、大垣市役所の最上階にある「キッチン楠木」。ホテルもいいが、こういう庶民的で公的な会場の方がボクは安心できた。
婚活パーティーに参加している女性は毎回、ボクが想像していた以上にキレイな方ばかりで緊張する。
ボクとカップル成立した相手は、ツキカさんという。ボクと同じ公務員で、三重県いなべ市に住んでいるらしい。
大垣を舞台にしたアニメの映画「聲の形」で会話が盛り上がったのが功を奏したか。今度こそは、失敗してたまるものか。別室に呼ばれ、ボクとツキカさんは連絡先を交換する。
「あの、……よかったら、この後少しだけでもカフェに行きませんか? 近くに木枡を使う面白いカフェがあるんです」
言いながら、ボクの手が震えていた。顔から火が出そうなほど恥ずかしい。
ツキカさんは、若い。まだ20代半ばではないか。背が小さくて、陽というよりは陰っぽいというか、思い込みが激しそうでオッチョコチョイのような印象のある、メガネ女子だ。
こういう放っておけないタイプに、いつも夢中になってしまう。30代の年の離れたボクを、よく候補に入れてくれたものだ。
果たして、本気だろうか?
「すいません。この後、私、親の店の手伝いがあって行けないんです」
え? いきなりフラれたか? またか。
「嘘を付いてお断りしているのではなくてですね、本当に今日がダメなだけなんです」
「じゃあ、また誘ってもいいんですね?」
ツキカさんは「はい」と笑顔で答えてくれた。ということは、まだフラれていないということだろうか?
「じゃあ、次はボクがツキカさんの住むいなべ市に行きますよ」
「いえ、できたらこっちで会いたいです。私、実は大垣のことを全然知らないんです。だから、もっと知りたいです」
「そうですか。どこに行こうかな……?」
困っていたら、婚活パーティーの司会者が間に入ってきて、チラシを渡された。このチラシに載っているイベントを行きなさい、ということだろう。
「ああ、水都まつり!」
ずっとコロナで中止していたが、去年からようやく開催となっている。それはいい。大垣市民にとって、このイベントは夏になくてはならないものだ。
このイベントが開催される2週間後に大垣駅南口で待ち合わせることを約束して、この日はツキカさんとは別れた。
ここまでは順調だ。しかし、本当に喜んでいるのだろうか? ボクは女の人が、怖い。
カップルとして成立したら、礼儀もしくは作法として、とりあえず1回は会ってもらえる。しかし、何が原因か分からないが、その最初のデートで幻滅させるようなことがきっとあって、これまで何度も失敗している。
結婚への道は、果てしなく、険しい。
女の人は、ボクの想定どおりにならないことばかりだ。フラれると、社会の落ちこぼれになってしまったように思い込んでしまって、やり切れない。
昔は、恋などしないで学業や仕事に専念していたら「よくやっているな」と親から褒められたものだった。
それなのに、一体、いつからだったろう?
恋をしないで、仕事ばかりに明け暮れていたら、親は悲しむようになった。恋をすることは、「不真面目なこと」であったはずなのに、ある年齢を境に「まっとうなこと」へと変質していく。掌を返されたようで悲しいが、だからと言って何もしない訳にもいかない。
今回は、自分にピッタリだと思える婚活マニュアル本もしっかり読んでおいたから、抜かりはないはずだ。
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