とある兄と妹の話

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30日目、朝から雨が降り始めた。 俺は、もっと降ってくれと願う。 そうすれば、匂いだけでなく、視界も見えにくくなる。 昼過ぎ、俺の願いが届いたのか、土砂降りになった。 初めて、神社に行った時のような、雨だった。 俺は、意を決して、その神社に向かう。 やはり、この神社は、どこか不気味さが漂っている。 左右の2つの狼の象が、待っていたような顔をしていた。 俺は、辺りを見回した。 社の正面には、マイはいない。 裏に回る。 いた。 土砂降りの雨の中、マイは、左足を咥えたまま、蹲っていた。 俺は、短剣の鞘を抜き、マイの後ろに回った。 ゆっくりゆっくりと近づいて行く。 マイは、動かないままだった。 俺と同じように、この時を待ち、死を覚悟していたのかもしれない。 俺は、頭を掴んだ。 「マイ。ごめん。」と言うと、マイは、俺の方に振り返った。 その瞬間、俺は、マイの首を切り落とした。 マイの身体は、狼から人間の姿に戻る。 手に持った首は、安らかに眠っている顔をしていた。 俺は、それをしばらく、涙とともに、抱きしめ続けた。 完
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