不幸中の幸甚

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 人生の一つの節目ともいえる『就職活動』。  学業を終え、社会に出るための準備となる就活は多くの学生を悩ませる。  これから数十年間の労働に励むための最初の一歩。その足先をどこに向けるのか。みんな悩んでいる。  それに足先が決まったからと言って、必ずしもそこを歩めるとは限らない。歩を進めるためには入念な審査がされるのだ。審査を通って初めて自分は歩くことが許可される。逆に審査に通らなければ、再び足先を変えるしかない。  自分の意志だけではなく、その道にいる人たちの許可がなければ、進むことはできない。だからこそ多くの学生はもがき苦しむことになる。 「ふーっ」  適性検査と面接を終え、会社を後にしたところで俺はホッと一息ついた。  見知らぬ地域に、見知らぬ人たち、上京して就職活動に励む俺にとって知らないことばかりで終始緊張しっぱなしだった。この後はビジネスホテルに行くだけなので、リラックスできる。とはいえ、それはほんの束の間だ。明日受ける会社は今日以上に重要なものであるのだから。  就活は、自分に合った会社を探す適性アプリを使って行った。自分のプロフィール情報と百個の質問に答えることでAIが自己分析を行い、分析した結果から自分の適性に合う会社を登録されたデータの中からランク付けして紹介してくれる。  AIが紹介してくれた高ランクの会社の中から自分が気になった会社を選択し、会社説明会を経て適性検査・面接に臨んでいる。  しかし、たった一つだけAIからの紹介ではなく、自分の意志で選んだ会社があった。幼少期から現在にかけて楽しんでいるカードゲームを扱っている有名会社だ。今は消費者側として嗜んでいるが、いつかは製作者側に立ちたいと思い、応募した。  一つ不安なのは、その会社がAIによる適性ではランクが下から二番目であるということ。おそらく適性は全くないのだろう。それでも、受けてみたい気持ちは止まなかったので応募のボタンを押した。  幸い、書類審査は通り、面接までこぎつけることができた。  明日はきっと俺の人生にとって一つの大事なポイントとなることだろう。  そのためにも今は休もう。俺はスマートウォッチとスマートコンタクトレンズを使い、駅の方までの道のりを検索した。
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