不幸中の幸甚

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 ベッドから起き上がると大きく背伸びをした。  緊張状態にあったことや普段と違う寝心地によって睡眠は浅いものになっていた。思わず、欠伸が出る。  時計を見ると7時を指していた。面接の時間は10時のため時間は十分にある。  ベッドから立ち上がり、朝の支度を始める。シャワー、着替え、荷物の確認、デジタル機器の着用をしたところで受付へと行き、キーを預かってもらう。  ホテルには今日も滞在する予定だ。大学は春休みであり、せっかく上京したので、明日は東京の街を謳歌するつもりだ。  外へ出ると朝食を済ませるために喫茶店へと寄る。優雅にコーヒーをすすり、活力をつけるためにパンとサラダをいただいた。  喫茶店で朝食を済ませた後に電車に乗り、目的地の最寄りの駅へと赴く。流石というべきか東京の通勤ラッシュは凄まじいものだった。大勢の人が電車に乗るため入るのも一苦労であれば、出るのも一苦労だった。  自分の降車する駅は大きな駅であるため大勢の人たちが一斉に降車した。その流れに乗って、俺も無事降車することができた。時計を見ると時間は9時30分を示していた。  歩いて15分の距離にあるということなので、このまま行けば間に合うはずだ。  いつものようにスマートウォッチを開き、スマートコンタクトレンズに目的地への経路を表示させる。視界に黄色いレールが浮き上がり、俺はその方向へと歩いていく。  これから人生にとって一つの大事な行事が始まる。気を引き締め、青になった信号を渡っていった。  その瞬間、視界にあった黄色いレールが突然と姿を消した。  一瞬何が起こったのか分からなかった。頭の中が真っ白になる。  一体何が起こったんだ。どうして急にレールがなくなったのだろうか。  信号を渡り終えると一度立ち止まって、スマートウォッチを覗いた。  そこでようやく状況を理解する。スマートウォッチの電波が0を示していたのだ。つまり、契約している会社で通信障害が起こったということになる。  おそらくさっきまでは駅内のWi-Fiにつながっており、動作していたのだろう。それが切れ、契約会社の通信に切り替わったところでうまく通信することができず、レールが消えてしまったのだ。  最悪だ。レールを敷くためには通信が必要不可欠。つまり、俺はスマホのマップ機能だけで目的地へと行かなければいけない。  方向音痴は免れることができただけで改善することはできていない。  つまり、マップだけでは目的地に到着することはとてもじゃないができない。  三次元ナビゲーションシステムさえあれば問題ないと思っていたので、事前にシミュレーションして駅から目的地までの道を覚えるなんてことはしていなかった。  完全に積んだ。今から人に場所を教えてもらったところで時間内にたどり着ける気がしない。タクシーを拾って行くか。だが、駅のタクシーは先ほど行列になっていた。アプリで今から呼んだとしても30分以内に間に合うかと言われれば微妙なところだ。  頭の中がパニック状態になった俺は思わず、発狂しそうになった。  結局、俺は目的地にたどり着くことができず、面接に間に合うことができなかった。
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