あめふり

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「―――で、意識を失う直前にかろうじて見たのは、お前の母親が両目と口を 何かで刺されて貫通して、そこから大量の血を流している姿だった、というわけか」 「一つ足りないよ。それと、僕が傘をあげた女が石突(いしづき)から血を滴らせている姿だよ」 「ふーん。なるほど。」 「話したくもないことを話させておいて、その反応は何なんだよ」 「ごめん。後もう一つだけ聞いていいか」 「仕方ない。何だ?」 「どうしてその女はお前らを殺そうとしたんだ?」 「殺そうとした、か。まあ、実際に母さんは死んだし、僕も両目がほとんど見 えないし………とりあえず、君が聞きたいのは、世間一般的に言う、動機、だ よね。そうだなあ、それは、僕が後から聞いた話なんだけど、どうやらその子 は、雨で傘がなくて泣いていたんじゃないんだよ。まあ、そもそも急な雨では なかったから、雨で傘がなくて泣いている、っていうのは不自然だしね」 「もったいぶらずにさっさと言ってくれ」 「はいはい、分かったよ。これは完全に僕は知らなかったんだけど、僕達が来 る直前、あの子のお母さんは死んだんだよ。自殺だ。彼女が気づいたときには もう遅かったらしい。そして、彼女は学校でいじめを受けていた。そんな彼女 の唯一の理解者であり、最も愛していた母を失った直後に、僕達みたいな円満 な家庭を見せつけられて、腹が立ったんだろう。いじめと母の死で精神が崩壊 していたこともあるらしい」 「………そうか」 「他にはあるか?」 「そうだな………一つ疑問なんだが、どうしてお前だけ口を刺されなかったんだろうか?」 「最後の最後で思いとどまったんじゃないか?」 「そんなもんか」 「ああ。ま、お前の知りたいことはこんな程度なんじゃないか。どうだ、記事のネタにはできそうか?」 「いや、なんかこれを記事にしても、世間からの評価もそうだし、なにより俺 が気分悪い。やめとくよ」 「そうか。じゃ、僕はこれで。」 「ああ、久しぶりに会えて嬉しかったよ」 「じゃあね、僕の目を刺したやつのお父さん」 〈終〉
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