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4. Sprint
明くる日。特講終了後に教室に戻ると、いつもより人が多かった。
「赤点補習も始まったから」
隣にいた風原ちゃんの解説に納得する。道理で、黒板前の男子集団に髙橋柊斗の姿があるわけだ。
自席に戻ったところで、髙橋から声がかかった。
「橘! サッカー部と中学からの誼で、補習の課題の英語、助けてくんね?」
「私も特講の課題あるから無理」
「橘ならすぐ終わるさ。この通り!」
私の席の前に陣取り、大袈裟に拝んでくる髙橋を半分白い目で見て、私は左の掌を彼に向けた。
「貸して」
「カスミサマ!」
「やめて恥ずかしい」
分かりやすく破顔する髙橋から受け取ったプリントに、いくつかヒントを書く。確かに、さして時間はかからなかった。
「後は由奈とどうぞ――って、ちょうど由奈から伝言。駅前にいるって。今から向かうって伝える?」
「完璧! サンキュ、これはほんの気持ちだ」
私の好きなカフェオレを置土産に、髙橋はスキップして自席に戻った。
髙橋め、最初から頼む気だったな。
嵐が去って一息ついた私は、そっと隣の席を見た。
高良君はいなかった。
ふと、自分の机の角に付箋が貼られているのに気が付いた。高良君からのメモだ。いつの間に。
部活の都合で、今日の勉強会には出られない――その一文に、私は少しだけ胸を撫で下ろした。付箋は筆箱に入れる。
コンビニで買ったお昼やブックバンドにまとめた勉強道具を持って、私は賑やかな教室を後にした。
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