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午後は、図書室で勉強することにした。
前よりもずっと早く、問題が解ける。波は見えないけど、物理の解法のポイントは掴めた感じだ。
イヤホンから流れるメロウなファルセットに乗って、私は無心に手を動かす。
明日の特講の問題は、時間にかなり余裕を持って、全て解き終えた。
休憩しようと、書架コーナーに向かう。
手にしたのは、鮮やかな虹が表紙の写真集。高良君が見たら、光の屈折率の話になりそうだ。
ひっそりと笑みが零れた。
パラパラとページを捲っても、考えるのは別のことだ。
高良君との勉強会は、もう終わっても良い気がする。彼との正しい距離感が分からなくなってきているし、潮時だ。互いの教科の弱点は、大体克服できた。高良君が先行で与えられた課題も、昨日で全部終わったし――
その時、本を元の位置に戻す音が、すぐ隣から聞こえた。私は、本から視線を転じた。
反射的に、身体が強張る。
隣に立っていたのは、高良君だった。
彼が書架に戻したのは、化石に関する本だった。少し前、将来は古生物学者になるのが夢だと言ってたっけ。
「高良君、偶然ね。部活はもう良いの?」
咄嗟に笑みを顔に貼り付け、私は小声で彼に話しかけた。
「ああ。橘さんは?」
「私はココで自習。気分転換に本見てたの」
高良君の低められた声や、彼との距離の近さに、妙にドキドキする。それを気取られないよう、私は冷静に写真集を書架に返し、学習スペースに戻った。
自習を再開した私の隣で、椅子が引かれた。高良君が無言で座り、私を見る。
私は、すぐにノートに視線を固定した。
「……変な感じ」
「何が」
「教室以外の場所で、高良君が隣にいる」
「駄目か?」
「そういうわけでは……」
彼の声音に、聞き馴れない何かを感じる。それは、私の心を酷くざわつかせた。
問題を解く手が止まる。
駄目だ、集中できない。
私は嘆息すると、手早く荷物をまとめ、席を立った。私を見上げる高良君と、視線がぶつかる。
「話があるの」
囁くような私の声に、高良君は無言で頷いた。
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