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交差点の赤信号で止まる。
高良君が、信号近くの掲示板に目を留めた。毎年この地域で開催される夏祭りのポスターが貼ってある。
「夏祭りに行ったことは?」
「うん、部活帰りにサッカー部で」
「今年も?」
「多分無いかな。八月二四日って、夏休み最終日だし。今年のサッカー部三年、勉強はイマイチな面子が多くて。行くなら、夏祭りより宿題の追い込み祭りだよ」
夜名原高校は、三年の夏でもそこそこ宿題が出る。しかもその量は、特講や補習受講は考慮されない。夏休みの残り日数を考えると、結構ハードだ。
「そうか」
そう言ったきり、高良君は口を噤んだ。
※ ※ ※
次の日、いつも通りの時間に登校した私を、高良君が待っていた。
「おはよう橘さん」
目があった途端、高良君が淡く微笑む。昨日間近で見た彼の真剣な眼差しが、まるで対比のように脳裏をよぎった。
ぶわっと、胸の内側で熱い何かが広がる。
「お、おはよう高良君この時間に教室いるって珍しいね今日は朝練ないの?」
ギクシャクと教室に入る私に、高良君は鷹揚に頷いた。
「今から行く。明日出発だから、今日は短め」
「そう気をつけて」
「階段から人が落ちてこないように、とか?」
「……昨日の今日で言うね、高良君」
「まあな。ところで、橘さんに頼みがある」
机に伏せ、わざと下から覗き込むようにして、高良君が私を見つめる。
「今日の三時、グラウンドに来てほしい」
彼の黒い瞳に意識を吸い込まれた私は、コクンと無言で頷いた。
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