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私、橘 花純の朝は早い。サッカー部マネージャ時代は朝練参加、三年生になり部活を引退後は朝練を「学校で朝学習」に置き換え、通勤ラッシュ前の電車で登校するのが日課だ。その普段よりも、今朝は早くに家を出た。夢見が悪すぎて二度寝できなかった。
幸か不幸か、今日は私の通う夜名原高校が、三年生の成績上位且つ希望者向けに開く「難関大受験対策特別講習」、通称「特講」の初日だ。
特講は、通常授業よりハイレベルな問題を中心にした授業で、日曜を除く七月終盤から八月上旬の約二週間、文理別に専門科目と英語が毎日ある。理系クラスに参加するものの物理が苦手な私は、特講はいつもより予習復習が必要だ。今朝は、朝学習の時間が長く取れたと考えよう。
※ ※ ※
熱帯夜の名残の生温さと、無人の静けさとが混在した校内を、昇降口から三年五組まで誰とも会わずに歩く。イヤホンから流れるギターリフが、その特別感を倍加する。
音楽に乗り、私は教室の扉を開けようとして――
教室の扉が、不意になくなる。
代わりに現れたのは眩しい白色――男子制服の夏服シャツ。
「わっ!」
「おっと」
ぶつかるのを寸前で堪えた私の頭上に、低音のハスキーボイスが降った。
この声は!
驚いた私は、半ば仰け反るように相手と距離を取る。
「ご、ごめん!」
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