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予想通り、少し見上げた位置にあるのは、中学生でも通用しそうな日焼けした童顔。慌てる私とは対照的に、目の前の彼――クラスメイトの高良 宗治君は、普段通り淡々としていた。
「おはよう、橘さん」
「おおおはよ。は、早いね高良君」
しどろもどろな私を訝しむでもなく、高良君は軽く頷いた。
「今日から特講だから朝練」
「そう、なんだ、私はその、特講前に教室で自習を。高良君は朝練頑張ってもうすぐ全国大会出場だしって私が言うまでもないけど」
「橘さんも頑張って」
「あ、うん」
高良君は私の横を器用にすり抜け、長いストライドで颯爽と歩き去った。
振り返らないその背中を一頻り眺めてから、私は無人の教室に入る。
グラウンド側の窓際の列、後ろから二つ目の机の上に鞄がある。高良君の席だ。
その一つ横の自席に座り、私は机に突っ伏した。
「……吃驚した」
心臓がバクバクする。頬に当たる机の天板が、ひんやり気持ち良い。それはつまり、自分の顔が熱を持っているわけで。
高良君に、変に思われなかったかな。
――橘さんも頑張って
「勉強しよ」
顔の熱は脇に置き、私は気合を入れて物理の教科書を開いた。
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